日本で進むネット世論操作と右傾化

一田和樹

March 29, 2018 08:00
by 一田和樹

ふたつの要因で右傾化が加速する日本

昭和の時代に生まれた方々の中には
「日本って右傾化しているのではないか?」
「全体主義化していないか?」
と感じている人も少なくないだろう。その通り、日本は右傾化に進んでいる。

その原因は大きくふたつある。一つは意図的に世論操作などを行って右傾化を進めようとしている勢力の存在。もう一つは自然な流れとしての保守への回帰である(図1)。以下、個別に解説していこう。


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日本国内で世論操作のためのボットが大規模に活動している

先日公開されたドイツのエアランゲン=ニュルンベルク大学のファビアン・シェーファー博士の論文『Japan’s 2014 General Election: Political Bots, Right-Wing Internet Activism, and Prime Minister Shinzō Abe’s Hidden Nationalist Agenda』において、2014年の衆議院選期間中におけるツイートの統計分析が行われ、衝撃的な結果が出た(注1)。

ファビアン・シェーファー博士の論文「Japan’s 2014 General Election: Political Bots, Right-Wing Internet Activism, and Prime Minister Shinzō Abe’s Hidden Nationalist Agenda

結論を言うと83.2%のツイートがコピー(そのままのコピーではない類似ツイート含む)であり、ボットを利用した拡散も確認された。シェーファー博士は、ツイートの内容を分析し、2014年の衆議院選の安倍政権には「ナショナリズム」という隠れたキーワードがあったと推測している。

2014年12月8日から30日の間のツイートの中から政治に関係あると考えられるキーワードを含むツイート54万2584件を抽出して析析したもので、45万1530件、83.2%が類似ツイートを含むコピーであるとしている。類似ツイートとは元のツイートとは若干表現を変えているもの(near-duplicates)である。この論文の特徴は言語解析を行い、完全一致ではなく類似のものも認識できるようにしている点だ。なお、単純な完全コピー(リツイートなど)は30万7670件56.7%だった。つまり単純なリツイートではなく、同じ内容だが表現に手を加えた類似ツイートは14万3860件存在したことになる。

この情報を統計解析し、5つのパターンを抽出した。そのうち3つのパターン(パターン1、2、5)は「安倍政権支持キャンペーン」のボット、残りの2つのうち一つが「反安倍政権」。最期のパターンは「ボットに似た人間」であろうとしている。Webで記事を読んでシェアボタンをクリックしたような場合、ツイート内容が似ているのでボットのように見えるが、実際には人間が操作している。

全体像を整理したチャートが図2になる。

論文全体は日本の政治状況に踏み込んだものとなっており、日本でネット世論操作が行われ、選挙にその影響が出ている可能性を指摘。その裏には「ナショナリズム」があったと分析している。
 
(注1)『東洋経済オンライン』にこの論文を紹介した日本語の記事『SNSが日本の政治に与える無視できない影響』もあるが、どちらかというと政治へのSNSの影響を紹介しており、論文の内容については軽く触れるに留まっている。元の論文(英文)には詳細なデータがあるのでぜひそちらをご覧いただきたい。

右派の台頭と回帰

立教大学の木村忠正教授はネット上での言論などの解析を続けている研究者である。今年の『中央公論』1月号に「「ネット世論」で保守に叩かれる理由 実証的調査データから」を寄稿している。

木村教授によると、社会系ニュースへのコメント分析の結果、過激な言説は約1%の投稿者が生み出す約20%のコメントに顕著にみられた。残り99%の投稿者の80%のコメントはそうではないとしている。

過激な一部の言説だけでなく、一般の投稿からも下記の三つの傾向が見られたという。
 
(1)韓国、中国に対する憤り(嫌韓、嫌中意識)
(2)「弱者権利」(立場の弱さを利用して権利を主張、獲得する)認識に基づく、マイノリティ(社会的少数者)への違和感
(3)マスコミに対する批判

(1)が右傾化、保守化を示しており、少数のアカウントが繰り返し投稿することで存在感を高めていることが実証研究で明らかになった。愉快犯的な動機の者もいるが、政治的社会的動機があるのではないかと指摘している。ネットでの言説はある意味、正しさを巡る戦いであるとして、MFT(Moral Foundations Theory、道徳基盤理論)を元に2016年7、8月に調査を実施しデータ分析を行った。その結果が、表1である。


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リベラル層は年齢が高い層に多く(A〜F)、保守的傾向はデジタルネイティブ層(G、H)に見られた結果となっている。リベラル層はネットでの発言をあまりせず、保守的傾向のある層の方がネットで活発である。ネットで盛り上がっている方に便乗しそうな層(クラスタ)もあり、実際よりもネット上の世論は保守的に見えるようになっている可能性が高い。

木村教授はもともと保守パターンが人類にとってのデフォルトであり、日本では第二次世界大戦によってその傾向が抑制されていた。それが時を経て保守に回帰している可能性を指摘している。

書き込み要員募集告知が増加

特定の政治団体に対しての誹謗中傷を書き込むライターを募集する告知や政権党の主張を指示する書き込みをするライターの募集などが堂々と行われている。募集はクラウドワークスランサーズなどのサイトで行われていたが、クラウドワークスでは騒ぎになったため非掲載になっている。

これらの募集の多くは現政権支持、保守的傾向あるいは差別を助長するような内容に関するものである(SNSで発言する、ブログを書く、コメントを残すなど)。

人手で意図的にツイートを量産するアカウントは「トロール」と呼ばれている、ボットと並んでネット世論操作でよく利用される。これらの広告はトロール募集の告知にしか見えない。

ヘイトスピーチや誤った言説を政治家や著名人が発言

これについては枚挙にいとまがない。
『BuzzFeed Japan』では選挙期間中に検証記事のシリーズを掲載している。ここには安倍総理の事実誤認発言や作家の百田尚樹氏の事実誤認発言などが並んでいる。

最近では『産経新聞』が2月8日、「沖縄の交通事故で米兵が日本人を救出し、後続車にはねられた」という誤ったニュースを出した。その後、産経新聞は謝罪したが、異例なことにこの記事を掲載したヤフージャパンも謝罪した。産経新聞はこのニュースを発信した際、沖縄地元紙が報じていないことに触れ、厳しい批判を行った。検証記事がBuzzFeed Japanに掲載されている

差別や誤った情報に対して日本の社会が、以前に比べて甘くなってきたとしか思えない。本来なら、誤報や差別に対する発言を訂正し止めるか、社会的地位や信用を失うことになる。しかし実際には同じ地位に留まり、困っている様子もない。

サイバー攻撃としての世論操作

以上のことを踏まえると、日本のネット世論は保守化、右傾化、全体主義化が進んでおり、維持し加速するためにボットやサクラの書き込み要員(トロール)が投入されている可能性が高い。そしてデジタルネイティブ世代の右傾化も進んでいる。

ネット世論操作を仕掛けている相手が誰なのかは、これまでの情報では不明としか言えない。素直に考えれば現政権あるいは政権与党ということになるが、それほど単純でもない。たとえばロシアは右派、左派を問わずヨーロッパの過激な政党や思想グループを支援している。最近活発化している世界各地の分離独立運動の多くにロシアが関係しているという分析もある。ロシアが日本の右傾化を加速しようとしたとしても不思議はない。同様のことは中国を始めとする他国でも行っている可能性もある。

日本はネット世論操作についてはきわめて無防備であり専門家もいない。現在の戦争はいわゆる武力のみだけではなく、世論操作、経済、宗教、思想を含めたあらゆるものを武器化して戦う。

以前の記事でも指摘したが、日本も早期にこうした攻撃に対応できる態勢を整えないといいように潰されてしまう。いや、すでに潰されているのかもしれないが。

本稿の執筆と改稿に当たり、エアランゲン=ニュルンベルク大学ファビアン・シェーファー教授と立教大学木村忠正教授にお世話になりました。紙面を借りて御礼申し上げます。ありがとうございました。

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