「教科書アダルトリンク事件」の犯人が逮捕される

牧野武文

February 13, 2018 08:00
by 牧野武文

中国の中学高校用副教材『中国古代詩歌散文鑑賞』の中に、参考用としてアダルトサイトのURLが掲載されて教育界が大騒ぎになった事件を以前にお伝えした。このアダルトサイトの運営者が逮捕されたことを『騰訊新聞』が報じた。

「あぶれ組」による犯行

中国の人口は約14億人。中国政府は伝統的に教育に力を入れており、大学数は約2900校もある(日本は約780校)。毎年、約750万人もの大学卒業者が誕生している。優秀な学生を育成できるようにはなったが、地方大学の卒業者はいくら優秀であっても就職口がないという矛盾を抱えている。アリババや百度、テンセント、360など、国際的な知名度を得るようになったIT企業も多いが、そのような企業に就職できるのは一握りの学生でしかない。地方の大学卒業者は、優秀な能力を活かすことができず、低賃金の仕事で我慢をするしかない状態が続いている。

中国でIT犯罪が多いのは、このような背景があることと無関係ではない。中国は、治安を乱す暴力犯罪、薬物犯罪に対しては極めて厳しい対応をしているが、なぜか詐欺犯罪に関してはさほど厳しくない。騙される方が気をつければ防止できるはずという感覚がどこかにあるのだろう。地方で工学系の大学を卒業した学生たちは、納得のいく仕事に就くことができず、IT詐欺犯罪に手を染めていってしまう例が跡を絶たない。

教科書アダルトリンク事件の犯人も、このような「あぶれ組」だった。

経営がうまくいかない

逮捕された主犯格の魏某(仮名)は、2000年に武漢大学に入学し、通信工学を専攻した。4年後、大学を卒業して、著名なIT企業に対して就職活動をしたが、どこも採用してくれなかった。魏某は、失意のうちにあるITエンジニア養成機関の武漢支店で講師をすることになった。ここで、生徒としてトレーニングを受けていた曽某(仮名)と知り合った。曽某は、ごく普通の企業で事務の仕事をしていたが、ITエンジニアに転職したいと考え、この養成機関に通ってきていた。学習能力は高く、めきめきITエンジニアリングを身につけていく。講師であった魏某は、曽某の能力を高く評価した。トレーニング課程を修了した曽某は、魏某の推薦もあり、この養成機関で講師として働くことになった。

だが、講師の給料はあまりにも低い。ふたりは、そのまま講師をしていても、将来が開けないと考え、勝負に出ることにした。2010年にふたりで武漢雷勝科技有限公司を設立した。ウェブサイトを構築するサービスを提供する会社で、仕事はたくさんあり、会社は軌道に乗るかに見えた。

しかし、時期が悪かった。世の中は、PCからスマートフォンに急速に移行していった。スマホサイトの技術に明るくない武漢雷勝科技有限公司は、次第に仕事が減少していき、行き詰まりを感じるようになってきた。

2016年5月、いよいよ会社の経営が苦しくなってきた。ふたりがやるべきことは、スマホサイトやアプリの技術を学ぶことだったが、そんな大変なことはしたくなかった。


事件の舞台となった武漢雷勝科技有限公司。元々はウェブ構築をするベンチャー企業だった。しかし、経営が苦しくなり、イカサマアダルトサイトを運営して、会費を騙し取ることを企んでしまった(https://zhuanlan.zhihu.com/p/32961190 より)。

「蒼井そら」で一儲けをたくらむ

ふたりは手っ取り早く経営状態を改善させるために、アダルトサイトの運営に注目をした。しかし、中国ではアダルトサイトの運営は、懲役刑まである違法行為だ。そこで考え出したのが、イカサマのアダルトサイトだった。「蒼老師(日本の元AV女優「蒼井そら」のこと。中国では蒼老師という愛称で呼ばれている)が教える○○みたいな会員サイトを作って、中身はただの蒼という名前の先生が漢詩を教えるみたいなサイトはどうだろうか? アダルトサイトだと勘違いして会員登録をしても、中身は漢詩のサイト。アダルトサイトではないので、違法行為にならないだろう」という話になった。

しかし「会員登録した人が騙されたと怒るだろう」という話もでた。ふたりはこれにも対策を考えた。トップページに、ネット消費者保護協会のような架空の組織のバナーを表示し、通報窓口の電話とメールアドレスを掲示する。イカサマアダルトサイトで騙されたと気づいた利用者は、その電話番号とメールアドレスに連絡を入れてくるだろう。もちろん、電話はいつも留守番電話、メールは放置する。そのうち、騒ぎになるかもしれないが、それまでの間に充分稼げるのではないかと考えた。

ふたりは、適当なサイトから漢詩をコピペしたサイト作り、それから、いかにもアダルトっぽいトップページを作った。会員登録の機能を設置し、プラチナ会員、ゴールド会員、ダイアモンド会員の3種類を用意し、月9.9元(約170円)から72元(約1200円)までの利用料も定めた。ユーザー登録をして、スマホ決済やデビットカードで利用料を支払うと、サイトの内容を見ることができる。しかし、トップページはいかにもアダルト画像や動画が見られるような作りだったが、サイトの中にはそんなものはひとつも存在していない。やっつけで作った漢詩がいくつか読めるだけだ。

ふたりは、利用者からのクレームがSNSなどに挙げられて、ネットで問題視されるようになったら、すぐにサイトを閉鎖してしまうつもりだった。しかし、とんでもないところから発覚をし、大事になってしまったのだ。


中国高校の教科書にURLが記載されて騒ぎとなったアダルトサイト。トップページだけ、中身はコピペした漢詩が掲載されているだけだった(https://zhuanlan.zhihu.com/p/32961190 より)。

中学高校の国語の副読本に掲載

運営を始めて10ヵ月、自分たちのサイトのURLが、あろうことか中学高校の国語の副読本に掲載されてしまった。サイトの中身である漢詩のページは特に保護をしてなく、直接URLを入力すれば、会員でなくてもアクセスができてしまう状態になっていた。百度検索などでも、漢詩のページが直接検索できるようになっていた。人民教育出版社の『中国古代詩歌散文鑑賞』の副読本の編者が、トップページのことを知らずに「歴朝歴代の武侯(諸葛亮)を讃える詩大全」のページのURLを副読本の中に参考リンクとして掲載してしまったのだ。

この教科書で勉強をしていた中高生の中には、長いURLをすべて入力するのではなく、ドメイン名だけを入力してトップページを表示させる生徒もいる。そうすると、トップページのイカサマアダルトサイトトップページが表示される。中国教育部(文部科学省に相当)も巻き込んだ大騒ぎになった。

武漢公安とテンセントの守護者計画チームは、百数十人の専従チームを結成し、武漢雷勝科技有限公司の存在を特定し、ふたりを逮捕した。すでに300万人以上の会員を集め、さらに全国に代理店募集をし契約金をかき集め、ふたりは6億元(約100億円)を売り上げていた。アダルトサイトではなかったので、そちらの法律はには触れなかったが、大型の詐欺事件として起訴され、ふたりは現在服役中だ。

中国の教育レベルは急速に上昇している。しかし、そのペースがあまりに速すぎるため、社会がその優秀な人材を吸収しきれていない。この「あぶれた優秀な人材」が、サイバー犯罪者の供給源となっている。「サイバー犯罪などをするよりも、まともな仕事をした方が割りがいい」。そういう社会を築けるかどうか、中国は試されている。

ニュースで学ぶ中国語

蒼老師(cang laoshi):蒼先生、日本の元AV女優、蒼井そらのこと。2010年にツイッターを始めたところ、中国からのフォローが殺到した。性の導師・蒼老師として多くの男性ファンを獲得する。2016年9月、ホテルの空室を当日に格安で利用できるサービス「訂房宝」の首席ユーザー体験官に就任するも、昨年2月に倒産。現在も、日中でタレントとして活動している。

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