国内の言論統制が目的か? ベトナム人民軍のサイバー部隊「Force 47」(前編)

江添 佳代子

January 11, 2018 08:00
by 江添 佳代子

ベトナム人民軍は2017年12月25日、1万人規模の新たな軍事サイバーユニット「Force 47」(47部隊)の存在を公にした。このForce47は、インターネット上の「誤った見解」と戦うための部隊で、すでに一部で活動を開始したと伝えられている。

共産党による一党独裁の社会主義国ベトナムでは、インターネット上の反体制的な書き込みの規制が厳しく、過去に何人もの市民が逮捕されてきた。そのベトナムで大規模なサイバー部隊が新たに編成されたというニュースは「これまでよりも一歩進んだ弾圧」の予兆ではないかとの懸念が広がっている。

ベトナム国内を取り締まる「Force 47」

『ロイター』の報道によれば、ベトナム人民軍政治総局のグェン・チュオン・ギア(Nguyen Trong Nghia)副局長は2017年12月25日、ホーチミンで開催されたベトナム共産党中央宣伝部(Central Propaganda Department)会議でForce 47に関する公式発表を行った。このときギア副局長は次のように語っている。
「我々は、誤った見解に対して毎時、毎分、毎秒、積極的に戦う準備が整っていなければならない」
「また(誤った見解だけでなく)『これは一般公開すべき類いの情報かどうか』を疑問視する声もある」

つまりベトナム共産党が正しくないと判断する意見や、公にするべきではないと判断する情報との戦いを強化するために、ベトナム人民軍は1万人の人員を集めたということになるだろう。その規模を北朝鮮のサイバー部隊(※1)と比較したロイターは、次のように記している。

「しかし、一般市民がインターネットを利用できない北朝鮮では、(サイバー部隊が)国際的な活動に注力している。一方、副局長のコメントは(ベトナムのForce 47が)国内のインターネットユーザーに注力するのであろうことを示唆している」

この指摘のとおり、Force 47が取り組もうとしている相手は国内のインターネットユーザーだと考えられる。また同副局長の発表によれば、彼らは国内で発生する一般的なサイバー犯罪──たとえば詐欺行為や違法取引など──と戦うための部隊でもなさそうだ。

近年のベトナムにおけるインターネットユーザーの逮捕状況(後編にて詳述)から考察すると、Force 47はネット上のデマや風説の流布を防止するための存在というより、検閲強化を目的とした部隊だと見なすほうが自然だろう。より具体的に言えば、政権にとって不都合な意見や情報を市民が書き込む・読む・シェアするなどの動きを止めるために、あるいはそれらの活動に携わった市民を特定し逮捕するために、大規模な部隊が編成された可能性が高い。
 
※1…北朝鮮のサイバー部隊の人員数については「約3000人」「約6000人」「それ以上」など複数の説がある。2015年1月の『ガーディアン』に掲載された数字は6000人だった。この数字は韓国当局のコメントをベースにしている。

投資有望国ベトナムとインターネットの自由

これまでにもベトナムでは、国の一党独裁政治をインターネットで批判した複数の市民が特定され、逮捕されてきた。また2013年9月には、ソーシャルメディアにおいて「反政府的なプロパガンダ」や「反動的イデオロギー」を流布する内容の投稿を正式に禁止する法令も可決された。その違反者に課せられる罰金は1億ドン(※2)である。

このような規制の存在が国際的にも知られているベトナムは、しばしば中国やトルコ、キューバ、サウジアラビアなどの国々と比較されてきた。それらの国々の中で、近年の経済的成長がとりわけ著しいベトナムに対しては、国外の人権団体や活動家団体が何度となく「オンラインの人権侵害の及ぼす影響」の深刻さを訴えてきた。

しかし現在のところ、状況に大きな変化はない。むしろ2017年には、現政権を批判したブロガーが新たに逮捕され、懲役刑を下されたことが世界的な話題となったほどだ(後編にて詳述)。

『Freedom House』が毎年公開している「インターネットの自由度(2017年)」の図
ベトナムのスコアは「前年比:変化なし」と記されている

国際NGO団体の『Freedom House』は2017年の報告の中で、ベトナムのインターネットの自由度について次のように指摘している

「2016年中頃から権力を握っているグエン・スアン・フック(Nguyen Xuan Phuc)首相の新政府は、インターネットの自由のために全く環境を改善していない。TPP協定の交渉後には一部のブロガーが釈放されたものの、2016年の後半からは逮捕件数が急増した」

こういった国外からの批判や指摘に対し、現在のベトナム政府の示した公式な答えが「市民のオンライン活動を取り締まる1万人規模の新たなサイバー部隊・Force 47の編成」だったとするなら、今後の同国におけるインターネットの自由はますます制限されることが予想できる。そしてベトナムが「いまよりも」規制を強化した場合、どのようなことになるのかは大いに懸念されるところだ。

後編では、近年のベトナムとインターネットの背景について説明したい。
 
※2…1億ドンは現在の為替で約50万円。それほど高額でもないと感じられるかもしれない。しかしTRADING ECONOMICSの報告によれば、ベトナムの平均月収は約550万ドンなので、1億ドンは18ヵ月分。つまり平均年収の1.5倍となる。
 
後編に続く

江添 佳代子

江添 佳代子

ライター、翻訳者。北海道生まれ、東京育ち、カナダ・バンクーバー在住。インターネット広告、出版に携わったのち現職。英国のITメディア『The Register』のセキュリティニュースの翻訳を、これまでに約800本担当してきた。
THE ZERO/ONEの記事を中心に、ダークウェブをテーマにした『闇ウェブ』(文春新書)の執筆に参加。

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