地図サービスが悪用される!? 住所とピンのズレは裏世界の入り口

牧野武文

October 23, 2017 08:00
by 牧野武文

中国で最も多くの人が使っている百度地図に、不思議なPOI(Point of Interest)、いわゆるピンが大量に登録されている。ピンの位置と、説明に記載されている住所がまったくかけ離れているのだ。法制日報の記者が、この不思議なPOI地点に足を運んで取材をしてみると、そこは上海の裏社会に繋がっていたと法制日報が報じた

ピンの位置と住所が違う!?

Googleマップも百度地図にも、多くの地点、店舗が登録されている。百度地図の場合、店舗などが自分の店の場所を地図に登録するのは有料で、数十元から数百元の登録料が必要になる。コメント欄に店の住所、簡単な宣伝文句を書けるので、一種の広告として利用されている。

しかし、記載されている住所とピンの位置の住所がまるで違うというPOIが大量に存在をしている。不思議な話だ。地図を見た人は、ピンの位置に行けばいいのか、記載されている住所に行けばいいのか、迷ってしまう。しかも、どっちに行っても、それらしき店舗は見つからないというのだ。

3ヵ月前、法制日報の編集部に、ある足裏マッサージ店を経営する男性から投書があった。内容は、上海市の長寧区と普陀区(上海市の西側で、日本人を始めとする外国人ビジネスマンが多く住む地域。治安は良い)の特定の場所に、このような不思議なPOIが大量に存在しているというのだ。

記者は、問題がある投書があった地域を訪れた。スマートフォンの百度地図で、「足裏マッサージ」「サウナ」などのキーワードで、付近の店舗を検索してみた。すると、2604個のPOIが検索された。

そのほとんどは問題のないものだった。有名な足裏マッサージ店は、コメント欄に記載されている住所とピンの位置が一致している。しかし、中には記載されている住所と、ピンの位置が明らかに違っているPOIも見つかった。

ピンの位置はあえてデタラメ

その中のひとつ「ベニス水サウナ店」に注目をした。住所は「上海市長寧区古北路555」となっているが、ピンは住所とはまったく違う場所に置かれている。それでも、このPOIはすでに4048人が参照をしていた。

不審なPOIを登録していた「ベニス水サウナ」店は、東方世紀ビルの2階にあった。怪しい雑居ビルではなく、かなりまっとうで家賃も高そうなオフィスビルだ。

記者はまずピンの位置に行ってみた。しかし、その付近にサウナのようなものはまったくないし、「ベニス」という名前の店も存在しない。コメント欄には電話番号も記載されているので、記者は電話をかけてみた。「こんにちは。そちらのお店が見つからないのですが」。男性が電話で答えた。「そりゃそうです。ピンの位置も、記載されている住所もデタラメですから。正しい住所は、仙霞路345号東方世紀ビル2階です。ピンの位置にいるなら迎えにまいります」。

東方世紀ビルは、ピンの位置から数分のところにある。記者は、自分で行くことができると告げると、店員は「では、玄関に着いたらもう一度お電話ください。玄関まで迎えにまいります」と答える。

「ベニス水サウナ」が入っていた東方世紀ビル。大手企業などが入るまともなオフィスビルの中に、風俗店が紛れ込んでいた。中国では組織売春は、死刑もあり得る重大犯罪だ
(百度地図のストリートビューより)

「なんで、こんな面倒なことになっているの?」と尋ねると、「用心のためです」と答え、電話は切れた。記者が東方世紀ビルの玄関で再度電話をすると、先ほどの店員が迎えにきて、2階に連れていってくれた。ごく普通のオフィスのドアの前に、7、8人の男が集まっていて、懸命にスマホを操作している。

「こんな時間から、ずいぶんお客さんが多いんですね」と言うと、店員は「あれは私と同じ店員です。ピンの位置から電話をかけてくるお客さんを迎えに行く仕事をしているんです。夜9時から夜中の2時ぐらいの間が忙しくなりますね」と言う。
店員に導かれて、部屋の中に入ると、そこは普通のオフィスのロビーのようだった。ソファがあり、座って話ができるようになっている。

「最初に女の子を選んでいただけますか」と言われて、奥の部屋に通された。そこは暗く、速いリズムの音楽が鳴り、怪しい照明がぐるぐると回っている。部屋の半分はステージになっていて、そこに10人ほどの女の子が、ネグリジェのような姿で、ある者は立ち、ある者は座っている。暗くて顔はよく見えないが、みな、モデルのようにスタイルがいい。

腰にはプレートをつけていて、そこには「SS-3」のような記号が書かれている。「女の子のクラスですね。SSが2498元(約4万1000円)、Sが1998元(約3万3000円)、Tが1498元(約2万5000円)です。みな東莞式のマッサージをしますから、必ず満足しますよ」と説明する。

ネットの広告費は月額34万円

記者は困った表情を作って「うーん、高いなあ。今日は持ち合わせがないので、また今度来ます」と言って、帰ろうとした。すると店員は「こんなに可愛い子たちですし、今は物価も高いですし……。わかりました。別の場所になりますが、もう少し安く遊べるところをご紹介します。でも、そこにはこんな可愛い子はあまりいませんよ」と、別の場所を案内してくれた。

道を歩きながら、記者はその店員にいろいろと質問をした。すると、その男は店員ではなく、この店の経営者なのだという。10万元(約170万円)の資金を投じて、店を開いたと言う。「始めて半年は、こちらも経験不足で、お客も少なく、まったく利益はでませんでしたね。でも、百度地図に登録をしてから、お客が増えて、ようやく儲かるようになりました。まあ、百度地図を含めて、ネットの広告に毎月2万元(約34万円)はかかりますけどね」。

東莞式のマッサージとはどういうものなのか尋ねると「広東省の東莞市が本場の特別なマッサージです。頭から爪先まで、スッキリさせてくれますよ。ぜひ、試してくださいよ。女の子はみな東莞市から連れて来た本場の子ばかりですから」と答えた。

二人は、少し離れた場所にある某ビルの3階に入った。中の作りは最初の店とまったく同じだが、こちらは価格が800元から1500元(約2万5000円)と手頃だという。しかし、女の子は確かにモデルのようにスタイルのいい子は見当たらなかった。

記者が案内された格安店が入っている某ビル。こちらもそれなりに高級感のあるオフィスビルだ
(百度地図のストリートビューより)

記者は、あらかじめ打ち合わせておいた同僚にSMSを送り、同僚は急用のふりをして記者に電話をかけてきた。記者は電話に出てから、店主に「ごめんなさい、急に用事ができて、時間がなくなってしまった」と告げた。

店主は少しも嫌な顔をせず、「それは残念ですね。ぜひ時間のある時にまた来てください。私は20店舗を経営しているので、絶対にお好みの子を紹介できますから」と言って、携帯の番号が記載された名刺を渡してくれた。

警察の取り締まりと経営者の行方

記者は、投書と取材で知り得た情報を上海公安に情報提供をした。すでに公安でも、このような組織売春の店舗が、摘発を逃れるために百度地図を利用していることは把握していた。多くは、オフィスビルや低価格のホテルの部屋を借り、このような店舗を運営しているのだという。また、必ず裏口や非常口がある部屋を使い、万が一手入れにあった場合の逃げ道を確保している。多くの場合、そのビルの警備員にお金や品物を渡し、警官らしき人間がビルにきた場合は、すぐに連絡してもらえるようにしている。また、今回の東方世紀ビルと?達ビルの2店舗で、女の子はだいたい60人以上、案内役の店員も60人程度がいるはずだという。

上海公安は、すぐにこの2店舗の内偵調査に入り、この2店舗、そして普陀区万航渡路花鳥市場内の「新鼎カラオケ」を家宅捜索し、店内にいた男性店員、女性のほとんどを逮捕した。しかし、記者を案内したあの店主は、事前に察知して、店に近寄らなかったため、逮捕を逃れることができた。

記者が一連の取材を終え、資料を整理していると、あの店主の名刺が出てきた。記載されている携帯電話番号はとっくに解約されていると思ったが、気になったので電話をしてみた。すると、あの店主が出たのだ。「いやあ、世の中には悪いやつがいますね。誰かが警察にチクったらしく、あの店は手入れを受けちゃったんですよ。今は女の子と店員が釈放されて戻ってきたので、安化路と江蘇路に引っ越して、新しく店をオープンしました。ぜひ、来てください。絶対満足させますから」と、明るい声で語った。

記者は、この情報も上海公安に情報提供した。すると捜査員は「ああいう連中は、すぐに別の場所に引っ越して、また店を開いてしまうのです。まるで綿を押すような具合で、なかなか浄化しきれません。ですから、私たちは上海市を碁盤の目に分割して、端からローラーを転がすように摘発を続けているのです。また、地図を運営する企業にも管理を徹底していただき、不審な地点登録を排除するように申し入れていくつもりです」と語った。

素早い百度の対応

この法制日報の記事は、8月9日の朝刊に掲載された。同時に法制日報のウェブにアップされ、その記事が他のウェブメディアにも転載された。すると、地図の運営会社である百度の反応は極めて素早かった。

当日の昼には、公式コメントをウェブで発表した。それによると、報道を受けて、すぐにすべてのPOIを検査し、ピン位置と記載住所が異なっているPOIはすべて削除を行ったという。また、POI登録に審査制度を導入し、記載内容に矛盾がないかをプログラムで判定し、なおかつ担当スタッフが直接チェックするという二重の審査体制をとるという。そして、利用者の方に迷惑をかけたことを謝罪し、重要な情報を提起してくれた各メディアに感謝を示した。また、今後も、警察の捜査には積極的に協力をしていくと述べている。

百度の極めて素早い対応があったため、この問題はごく一部のネットワーカーの間で話題になっただけで、早くも沈静化した。

ニュースで学ぶ中国語

 
百度(baidu):中国の検索エンジンサービスを提供するIT企業。グーグルとほぼ同じ事業ドメインを持っている。CEOは李彦宏だが、国際的にはロビン・リーと呼ばれている。近年は、ドライバーレスカーの開発に注力している。




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