最大のダークウェブ闇市場「Alphabay」運営者がタイで逮捕され自殺

江添 佳代子

July 19, 2017 11:00
by 江添 佳代子

ダークウェブの闇市場最大手「Alphabay」を運営した容疑で逮捕されていた男が、拘置所で自らの命を絶ったようだ。『ウォールストリートジャーナル』の報道によれば、死亡が確認されたアレキサンダー・カーゼス(Alexandre Cazes)は26歳のカナダ市民。彼はタイで逮捕されたのち、現地の拘留所に収監されていた。

薬物や銃器などの様々な品を匿名で違法売買できる「Alphabay」は、いくつか存在している競合のサービスを押しのけ、あの「Silk Road」に取って代わるダークウェブ最大のマーケットプレイスへと成長していた。そのAlphaBayに突然アクセスできなくなったのは、今年7月5日(一部報道では7月4日)のことだった。

突如閉鎖してしまった「Alphabay」

ビットコイン持ち逃げ疑惑

このときAlphaBayは予告なく消えた。そこにはサービス閉鎖を伝えるメッセージも表示されず、また司法省やFBIなどのロゴも掲載されなかったため、いわゆる「出口詐欺」ではないか(管理者が計画的にAlphabayを閉鎖し、巨額のビットコインを持ち逃げしたのではないか)と疑ったユーザーも決して少なくなかった。なにしろAlphaBayは、いまや「利用者数40万人以上」といわれるほどの巨大市場である。一部には「Alphabayとともに、約380万ドル相当のビットコインが消えた」などの情報も報じられた。

仮想通貨を利用した匿名売買が行なわれる闇市場で、このようなトラブルはそれほど珍しいものでもない。2015年3月、SilkRoad閉鎖後に急成長を遂げていたダークウェブのマーケット「Evolution Market」の管理者2人は計画的にサイトを閉鎖し、約1200万ドル(約13.5億円)分のビットコインを持ち逃げしたと考えられている。
参考:『Krebs on Security』の記事当時の『The Guardian』の報道

また今年の5月には、別のダークウェブのマーケット「outlaw」が外部からのハッキングによりダウンし、そのままサービスを閉鎖することが運営者たちによって伝えられた。しかし、こちらも実際には出口詐欺だったのではないかと訝しまれる事件となっている。何の前触れもなく閉鎖したAlphaBayに、同様の疑いがかけられたことは当然だろう。

一方『Reddit』(Redditはソーシャルニュースサイトだが、実質的にはアカウント登録制の掲示板のような役割も果たしている)では、AlphaBayのスタッフを名乗る人物が、「どうか落ち着いて。現在サーバーはアップデート中、すぐオンラインに戻ります」という内容の投稿を行なっており、それに対する反応として「驚かせるなよ!」「なぜ事前に説明してくれなかったのだ」「本当に詐欺ではないのか?」などのコメントが寄せられた。そして7月6日には『The Register』が、「Redditの投稿を信じるかぎり、Alphabayのスタッフは単にアップデートを行なっているだけのようだ」と報道していた

7月5日、Redditに自称Alphabayスタッフによる投稿が行われた

豪華な暮らしと、独房での自尽

この騒ぎが起きていたとき、すでにカーゼスはAlphaBayの重要人物としてタイの警察に逮捕されていたようだ。ウォールストリートジャーナルの報道によれば、「彼の強制捜査は米国、カナダ、タイの当局の協働により行なわれたもので、7月5日にカーゼスがタイで逮捕されたのちにAlphaBayは閉鎖された」と、この事件に詳しい情報筋が語っているという。

カーゼスはカナダ出身のカナダ市民だが、8年ほど前からタイ人の妻とともに、タイで贅沢な暮らしをしていたようだ。地元警察は彼の逮捕時、彼の所有物だった「合計4億バーツ(約13億円)相当の3つの家屋と4台のランボルギーニ」も差し押さえた。一方、カナダのケベック州では同日、彼の母親が暮らしている住居などに王立カナダ騎馬警察(連邦政府警察)が家宅捜索を行ない、機材などを押収している。

タイで拘留されたあとのカーゼスは、麻薬密輸やマネーロンダリングなどの罪で米国に引き渡される予定となっていた。しかし『Bankokpost』の報道によれば、拘留から1週間が経過した7月12日の朝7時頃、彼は拘置所内で死んでいた。

警察の証言によれば、カーゼスは独房に拘留されており、また「誰からも襲われていない」ということが監視カメラでも確認されている。彼は自分の所有物のタオルを利用し、独房内のトイレのドアで首を吊ったようだ(『Chiang Rai Times』の報道には彼が収監されていた独房と、そこにタオルを持ち込んでいたカーゼスの様子が写真で掲載されている)。

本当に「Alphabay」のボスなのか

この捜査がどのようにして進められたのか、特に「どのような手法でAlphaBayの管理人を特定したのか」は気になるところだ。今後、おそらく何らかの説明があるとは思われるが、すでに容疑者のカーゼスは死亡しているため、「SilkRoadの首謀者としてロス・ウルブリヒトが逮捕されたときのように、今後はカーゼスの裁判を通して、多くの事実が明らかになる」といった展開は期待できそうにない。

3つの国の警察機関が7月5日に強制捜査を行なったとき、その捜査の対象となったのがカーゼス一人なのかどうかも不明だ。一部には「本当にカーゼスがAlphaBayのボスだったのか?」という疑問も持ち上がっている。しかし現在の状況から考えるに、彼はほぼ間違いなく「DeSnake」として知られる管理者であり、創設時からAlphaBayに携わってきた中心人物(あるいは中心人物たちの一人)でもあり、彼の逮捕によってAlphabayは幕を閉じたのだ、と多くの人々が認識している。

今後のAlphaBayがどのようになるのか、たとえば残された関係者たちがAlphaBay(あるいは別の名前のサイト)の再建を目指しているのかどうかも分からない。その後のRedditでは、「AlphaBayのスタッフたちが利用していたRedditのアカウントは現在、FBIが掌握しているので信用してはならない」などの噂も立っているほどで、何もかもが定かではない。

そしてAlphabay関連の話は早くも、「次のダークウェブの市場の王者となるのは一体どのサイトだろうか」という話題とシフトしつつあるようにも見える。多くの人が本命として予想しているのは商品リスト数の多い「Dream Market」で、さらにテクニカル面に難があるとも伝えられている「Hansa」や、「Silk Road 3.1」などがリストアップされている。そのほかには「OpenBazaar」、そしてAlphaBayの利用者だったディーラーたちの注目を集めている新しいマーケット「GammaBay」などの名も挙がっている。

江添 佳代子

江添 佳代子

ライター、翻訳者。北海道生まれ、東京育ち、カナダ・バンクーバー在住。インターネット広告、出版に携わったのち現職。英国のITメディア『The Register』のセキュリティニュースの翻訳を、これまでに約800本担当してきた。
THE ZERO/ONEの記事を中心に、ダークウェブをテーマにした『闇ウェブ』(文春新書)の執筆に参加。

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