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ハッカーの系譜(11)スタートアップ養成する「Yコンビネーター」 (13) システムで「世界を変える」Airbnb

牧野武文

July 11, 2017 08:00
by 牧野武文

感情を交換する場

Airbnbの発想は「家賃の足しになって、しかも友だちがつくれる」ということにある。つまり、ホストの家にゲストを泊めるというのが基本だ。しかし、日本の民泊は「無人」であることが多くなっている。マンションのドアに、暗証番号鍵つきのボックスを設置し、その中に部屋の鍵を入れておく。ゲストは、メールでホストから教えてもらった暗証番号でキーボックスを開け、部屋に入り、泊まる。清掃などは専門業者に任せてしまうというもので、サービスとお金の交換のみがされ、感情の交換はほとんど行われない。シェアに見えて、実はただのレンタルなのだ。

Airbnbでは、ゲストとホストが語らい感情の交換もされる。現在では、ホストもしながら自分が旅行するときはゲストとしてAirbnbを利用する人も増えてきていて、そのような人たちがコミュニティーを構築しつつある。互いの家に泊まりあうのだ。休暇になると、普通の人は「どこにいこうか」と考えるが、彼らは「誰に会いにいこうか」と考える。ホテルに宿泊する一般的な個人旅行では味わえない旅の楽しみを提供するのがAirbnbの中心的なコンセプトになっている。

ホストもゲストを評価する

では、ゲビアとチェスキーの二人が、ホストの不安を解消するために考案したデザインとはなにか。それはホスト、ゲスト相互による評価システムだ。宿泊を利用したゲストがホストを評価するのは普通だが、ホストもゲストを評価する。例えば、室内の装飾品を壊した、常識的なマナーを守らなかったということがあれば、低評価となっていくのだ。

そして、ゲストから宿泊の申しこみがあったときに、ホストはゲストの評価を参考にして宿泊を受け入れるかどうかを決めることができる。当然、低評価のゲストはあちこちで宿泊を断られ、次第に泊まれなくなっていくことだろう。

この相互評価システムとホストがゲストを断ることができるシステムは、Airbnbの初期には批判を受けることもあった。ホストは、宿泊の申しこみがあったゲストの評価だけでなく、プロフィールも参考にして宿泊を受け入れるかどうかを決める。このときに、ホストはどうしても自分と属性が近いゲストを受け入れがちなのだ。例えば、年齢、性別、学歴、そして大きな批判を浴びたのだが人種だ(人種を書く欄は用意されていないが、顔写真を掲載するので見た目でわかる)。

実際に訴訟問題も起きている。ある黒人男性が宿泊の申しこみをしたところ、満室だと言われて断られた。その言葉に疑いをもったこの男性は、白人男性の偽アカウントをつくり、同じホストに申しこみをしたところ、宿泊が受け入られた。この男性はアメリカ公民権法に違反しているとして、Airbnbを訴えた。

ゲビアは、これは人種差別的な意識ではなく信頼度の問題だという。人間は、自分と近い属性をもった人間の方をより信頼しやすい。どうしても自分と近い属性の人間を受け入れ、自分と遠い属性の人間を拒否するという社会バイアスが生まれてしまうのだという。

社会的偏見を乗り越えることができる

Airbnbはこの社会バイアス問題を放置せずに、スタンフォード大学と共同研究を始めた。Airbnbの履歴データを利用して、統計処理をしてみたところ、やはり属性の近いゲストを受け入れ、属性が離れているゲストを敬遠する傾向がはっきりと見てとれた。つまり、社会バイアスは現実に存在しているのだ。

しかし、10回以上高い評価を得ているホストとゲストについて、同じ統計をとってみると、属性による社会バイアスが消え、多くのホストが受け入れていることがわかった。つまり、相互評価を積み重ねていけば、社会的偏見を乗り越えることができるのだ。

宿泊申しこみ時には、ゲストが簡単なメッセージをホストに対して送ることになっている。これもホストが、ゲストを信頼するかどうかの決め手になる。Airbnbはこのメッセージの長さについても、信頼度の統計をだし、200文字程度が適切であることを導きだした。「泊めてください」「気に入りました」という短いメッセージではなかなか信頼に結びつかないが、あまりに長文を書くのも信頼に結びつかない。なにかこだわりのある偏った性格の人なのではないかと思われてしまうからだ。

TEDで講演したジョー・ゲビア
8:00ごろからスタンフォード大学との研究について触れている

200文字程度が適切で、いちばん信頼度が得られやすいという事実をつかんだAirbnbは、サイトのメッセージ入力欄を200字程度が収まる大きさのボックスに変更した。もちろん、短く書いてもいいし、スクロールして長文を書くこともできるが、人はなんとなく入力欄の大きさに合わせてメッセージを書くものだ。

Airbnbは、このような信頼を誘導するデザインを数多く取り入れて、相互信頼のコミュニティーを作ろうとしている。暗証番号のキーボックスを使って、無人の「民泊」を運営している人は、お金儲けはできるかもしれないが、このようなコミュニティーには入っていけないだろう。

従来は、地域や属性によってコミュニティーが形成されていたが、都市化が進み、都市人口比率が高まるにつれ、伝統的なコミュニティーは成立しづらくなっている。Airbnbは、まったく新しい、インターネットを利用した信頼のコミュニティーを築こうとしている。ゲビアが大学を卒業したときに出会った赤いロードスターの旅人が言っていた「なんらかの方法で世界を変えたい」という言葉を、ゲビアは忠実に実行しているのだ。
 
(その14に続く)

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