社会信用スコアが新たな詐欺を生む中国

牧野武文

July 10, 2017 08:00
by 牧野武文

中国のネットでは、あらゆるものを疑わないとない。友人からのメールは、友人のアカウントを乗っ取った詐欺犯の可能性を考えて開く必要がある。

あなたの生活態度をスコア化

こんな状態では社会生活が送れない……と、現在中国で大きな注目を浴びているのが「芝麻信用」(zhima xinyong、ジーマーシンヨン)だ。これはアリババ(阿里巴巴集団)が運営するサービスで、電子マネー「アリペイ」(支付宝)と連動し、利用者の決済履歴、行動履歴から社会信用スコアを算出する。支払いだけでなく、アリペイ経由でホテルやタクシーを利用することでもスコアが変動する。適切に利用するとスコアが上がり、残高不足や支払の遅れ、あるいはサービス利用時にトラブルを起こすとスコアが下がっていく。350点から950点の間を上下し、一般的な消費者はだいたい600点台。700点を越えるとかなりの優良な消費者であるということになる。

アリババが運営する社会信用スコアサービス「芝麻信用」

企業はこのスコアを見て、「◯◯点以上の方には優待」あるいは「◯◯点以下の方はお断り」といった施策が打てることになる。信用問題が、大きな社会課題のひとつである中国で、この問題を解決するサービスになるのではないかと各方面から期待されている。

ところが、今度は、この信用スコアを上げることを餌にした詐欺事件が多発していると、『東方網』、『新浪』など複数のメディアが報道し、江蘇省南京市公安も注意喚起をする事態になっている。

信用スコアを使った詐欺事件を警告する江蘇省南京市公安のWebページ

中国人のモラルに大きな影響を与える

芝麻信用の社会信用スコアという考え方は、サービスを提供する企業から歓迎されている。

例えば、現在中国ではシェアリングエコノミーサービスが急成長をしていて、自動車、自転車、モバイルバッテリー、雨傘など、さまざまなシェアサービスが登場している。しかし問題は、扱いが荒い、返さない、料金をごまかすなどの行為が後を絶たないことだ。そこで芝麻信用が利用され、一定スコア以上の人にはデポジット料金を不要にするなどの優待特典を設け、優良な利用者の比率を上げようとしている。また、ホテルなどでも、一定スコア以上の宿泊客は、デポジット(チェックイン時に数泊分の料金をフロントに預ける、またはクレジットカードを提示する)を不要にしているところが増えている。

この芝麻信用は各方面に広がり、一定スコア以上になるとシンガポールのビザ取得申請が簡単になったり、空港の出国手続きの際、専用レーンを使うことができるなど、公的機関にも広がりを見せている。これによりきちんと支払いをし、サービスを行儀よく利用するという良識のある行動を促す効果が表れ始めている。

商品の返金連絡

4月中旬のある日、ECサイト「小紅書」(シャオホンシュー)で買い物をするのが大好きな女性、朱さんが出勤途中に、小紅書の顧客センターと称する人物からの電話を受けた。「先月購入したエステ用品のフェイシャルパックに問題が生じた」と言う。検査をしたところ、鉛含有量が基準値の40倍もあった。使用を控え、廃棄をしてほしい。購入代金である280元は返金するということだった。

ただし……と、その顧客担当は、不思議な条件をつけてきた。芝麻信用のスコアが700点以上の方には、各顧客のアリペイに自動返金が行われる。しかし、朱さんの信用スコアは700点に達していないので、返金に面倒な手続きが必要になってしまうし、時間もかかる。そこで、朱さんの信用スコアを700点にあげるために、こちらの指示に従ってほしいというのだ。

「顧客担当」は、アリペイのアプリから「来分期」という機能を利用するように促した。この来分期は消費者金融会社が運営するもので、お金を借りることができる。借入金はすぐにアリペイの口座に振り込まれ、返済もアリペイの口座から自動引き落としされるというものだ。「顧客担当」は、ここで一定額以上のお金を借りて、すぐに返済すれば利息はかからないし、信用スコアが上がり700点を超えるというのだ。

朱さんは聡明な女性で、この時点でなにかおかしいと思い、電話を強制的に切り、小紅書の顧客センターに自分から電話をかけた。すると、フェイシャルパックにそのような問題は発生していないし、返金も行っていないという。朱さんはすぐに警察に通報をした。

単純だが用意周到な詐欺

賢い朱さんは、被害を受けずに済んだが、もし来分期でお金を借りたとすると、「顧客担当」から再び電話がかかってきて、「こちらから送るQRコードをスキャンして返済手続きをしてほしい。この方法だと、一気に信用スコアがあがるから」と言われる。もちろん、そのQRコードをスキャンすると、犯人の口座に振り込みをすることになるのだが、被害者はアリペイの残高が減ったことから、返済をしたのだと思い込んでしまう。借りたお金は消えて、借金だけが残ることになる。

単純な詐欺ではあるが、準備は周到にされている。まず、被害者の購入履歴と信用スコアをきちんと把握している。そのため、被害者は本当の顧客センターからの電話だと信用してしまう。ECサイト内部に共犯者がいるか、個人の購入履歴情報が流出しているとしか考えられないが、各ECサイトはどこも否定をしている。

また、商品に健康上差し障りのある問題が発生したというシナリオも優れている。多くの人は、びっくりして話を聞いてしまうからだ。

また、来分期などのアリペイと連動した消費者金融機能の存在は、一般のアリペイ利用者の間ではまだあまり知られていない。「借金をする」という感覚は薄く、「信用スコアを上げるための裏技」のように考えてしまう。借りてもすぐに返せば利息はかからない。それで、信用スコアが上がるのだったらいいじゃないかと気軽に考えてしまうのだ。

芝麻信用絡みの詐欺事件が120件発生

南京市公安の注意喚起によると、今年1月から4月までの間に、南京市がある江蘇省では、同様の芝麻信用絡みの詐欺事件が120件発生している。これは昨年1年間の総件数76件に比べて、大幅に増加している。いずれも信用スコア不足で自動返金ができないため、消費者金融サイトを利用してスコアを上げてほしいと言われる詐欺事件だ。

芝麻信用は現在、一定スコア以上の利用者を優遇するという施策が多いが、いずれ「一定スコア以下の方はお断り」という施策も登場してくることは間違いない。ホテル、レストランなどでは「700点以上限定」にすることで、利用客が快適に過ごせるようになるからだ。サービス提供側も、良質の顧客ばかりであれば、トラブルが減り、その分、低コストで質の高いサービスを提供できるようになる。

企業は高スコアの顧客を求めるが、詐欺犯たちは低スコアの人間を求める。知識が乏しく、小さな目先の利益に敏感であるため、騙しやすいからだ。社会信用スコアは、企業にとっても有力な情報になるが、詐欺犯たちにとっても利用度の高い情報になっているのだ。

同様の社会信用スコアの考え方は、米国でも普及し始めている。日本でも、クレジットカード、ローン、保険といった特定の業界、個人売買サイト、Airbnbなどのシェアサービスなど、特定のサイト内のでの信用スコアは当たり前のように使われている。これを芝麻信用のように社会全体に広げることには、多くの人が抵抗感を持つと思うが、いずれ日本でも社会信用スコアが導入されることは必然でもある。その時、どのような事態が起きるか、壮大な社会実験をしている中国の状況を注視しておく必要がある。

ニュースで学ぶ中国語

 
芝麻(zhima):ゴマ粒のこと。ゴマ粒のように小さな積み重ねで信用が積み重なっていく仕組みになっている。保有資産、SNSの友人たちの信用スコアなども影響するが、結局は日々のネットサービスを行儀よく利用することがスコアアップにつながる。そのため、芝麻信用は、現在のところ、消費者の行動をいい方向に向かわせると評価されている。

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