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ハッカーの系譜(11)スタートアップ養成する「Yコンビネーター」 (12) 多数の投資家に反対された「Airbnb」

牧野武文

July 4, 2017 08:00
by 牧野武文

危険なことは誰もしない

Yコンビネーターのもうひとつの出世頭、AirbnbもYコンビネーター参加時には優等生ではなく劣等生だった。理由はDrobboxとよく似ている。実は空いている部屋のレンタルを仲介するサービスは当時雨後の筍のように生まれている最中で、Airbnbはパイオニアではなく、後発組だった。

しかし他の仲介サービスの多くが、ホテルの空き部屋や投資用に購入したマンションの貸し出しといったものが中心だったのに対して、Airbnbは、自分が住んでいる家の空室をレンタルするというものだった。つまり、自分が普段暮らしている家に、見ず知らずの人間を泊めるということが基本になっていた。

多くの投資家が、そんな危険なことは誰もしたがらない、あるとしてもシリコンバレーの若者や大学生といったごく一部の人に限られるだろう。市場は大きくないし、必ずホストとゲストの間でトラブルが生まれ、成長に水を差すことになる。投資先としてはほとんど期待できないという判断だった。これに対して、共同創業者のひとりであるジョー・ゲビアは「でも、絶対流行りますから!」としか反論できなかったという。

さらに、サービスのネーミングもよくなかった。Yコンビネーターに参加したときのチーム名は、すでにウェブを開設していることもあって、Airbedandbreakfast.comだったのだ。わかりやすいと言えば、わかりやすいが、長すぎる。グレアムはeBay、Yahoo!、Googleなどのようにスタートアップの名前は2音節までにして、記憶してもらうことが重要だと考えていた。Airbedandbreakfast.comのチームにもまず名前を短くすることからアドバイスを始めた。

民泊宿泊サイト「Airbnb」。2016年は、同サイトを利用した訪日外国人は300万人を突破した

見知らぬ人を泊める不安

Airbnbの始まりの神話として、共同創業者のゲビアとブランアン・チェスキーがサンフランシコのアパートに一緒に住んでいて、デザイン協会主催のコンベンションがあるときにホテルが不足していたので、アパートの自室リビングでエアーベッドと朝食を20ドルで提供することから始まったという有名な逸話がある。

しかし、本当に重要な逸話は、その2年前にゲビアの自宅で起こっていた。美大を卒業したゲビアは、それまで制作した自分のアート作品を庭に並べてガレージセールのようなことをしていた。そこに、マツダの赤いロードスターに乗った若者がやってきて、ゲビアのアート作品を買ってくれた。それがきっかけで話をしてみると、その若者はロードスターに乗って、米国中を旅しているのだという。その目的とは、どういう方法かはまだわからないが、とにかくなんらかの方法によって世界を変えたいのだという。

ゲビアも同じような気持ちをもっていたため、二人は意気投合して、近くのレストランにいって夕食をともにした。そして時間も遅くなったので、ゲビアはお開きするつもりで、「今晩はどこに泊まるの?」と尋ねた。するとロードスターの旅人は、「ひどいことに泊まるところがないんだよ」と言う。反射的にゲビアは「だったら、エアーベッドがあるから、うちのリビングに泊まりなよ」と言ってしまって、すぐに後悔をした。ゲビアは、その旅人が「いや、そこまで甘えるわけにはいかないよ」と断ってくれることを心の中で念じたが、旅人は「ありがとう、助かるよ!」と言って、ゲビアの家のリビングに泊まることになった。

その夜、ベッドルームで寝ているゲビアは不安に怯えたという。彼は確かにいいやつに見えるけど、サイコではないという保証はどこにもない。ゲビアはベッドルームの鍵をしっかりとかけた。サイコでないとしても、リビングにあるものが盗まれるのではないか、壊されるのではないか。そんなトラブルがなかったとしても、自分がいつも使っているシャワールームやトイレを見知らぬ人間が使うのは気持ちのいいことではない。

このときの不安体験が、後のAirbnbを特別な存在にする大きな原動力となっている。なお、その旅人は後に美術教師となり、ゲビアのアート作品をいくつも買ってくれた。現在でも友人の一人であるという。

その後、ゲビアとチェスキーがデザインコンベンションのときに、アパートのリビングに3人を一人20ドルで泊めた体験の話になる。ゲビアとチェスキーは、同じデザインやアートに興味のある3人と夜遅くまで語り合い、翌日、朝食を提供して送りだしたときに、こう話し合った。「家賃の足しとなって、しかも友だちをつくることができる。これをビジネスにできないものだろうか」。

部屋やエアーベッドを提供したいホストと宿泊を利用したいゲストをマッチングさせるサイトを構築することは、さほど難しくはなかった。しかし、見知らぬゲストを泊めるホストの不安を払拭する仕組みが必要だった。二人は、美大出身者らしくデザインの力でこの問題を解消しようとした。

レンタルエコノミーとシェアエコノミーはまったく違う

現在、日本政府もシェアリングエコノミーを成長戦略のひとつとして定めていて、内閣官房内にシェアリングエコノミー促進室を設置している。しかし、具体的な事業の中身を見ると、シェアリングエコノミーとレンタルビジネスがごちゃ混ぜになっているのが実情だ。

例えば、サポーターと称する登録者が家事代行をする、自宅の駐車場を空いている時間だけ貸しだす、企業がクラウド経由で仕事を依頼するクラウドソーシングなどもシェアエコノミーだとされている。さらには、スーツケースや海外SIMカードのレンタル会社、時間貸しのレンタカー業者までシェアリングエコノミーに分類されている(ただし、政府資料にはBtoC型のシェアからCtoC型のシェアに将来は移行をしていくというような記述があるので、レンタルとシェアの違いは意識はしているのだと思われる)。

ゲビアは「レンタルエコノミーとシェアエコノミーはまったく違うものであるどころか、対極的な考え方だと言ってもいい」と言っている。レンタルエコノミーで交換されるのは、モノ、サービスとお金だけだが、シェアエコノミーでは、モノ、サービス、お金、そして感情が交換されるのだ。
 
(その13に続く)




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