私用メールを追求した米副大統領マイク・ペンスの自縄自縛 (中編) ペンスをはじめとする共和党議員の追求

江添 佳代子

March 15, 2017 08:00
by 江添 佳代子

私用メールを追求した米副大統領マイク・ペンスの自縄自縛(前編)

我々はメールなど一切使わない

2015年3月にヒラリーの私用メール問題が初めて報じられたとき、共和党の大物議員たちは連日、この問題が非常に深刻であると訴えた。

なにしろヒラリーは、政界にも財界にもメディアにも太すぎるほど太いパイプを持っており、切り崩せる隙が少ない。今回のスキャンダルは、そのヒラリーを真っ向から批判できる絶好のチャンスである。彼女の身勝手な行動が国務長官として軽率すぎたことは明白で、異論を唱えられる人もいないだろう。そこに彼らが食いついたのは当然のことだった。

しかし一部の共和党議員はヒラリー批判に勢いづくあまり、少々無茶な発言をしていた。たとえばジョン・マケイン上院議員は、ヒラリーが最初の会見を開く前の3月5日、MSNBCのニュース番組に出演し、「私は感情が高ぶったときにメールを送って後悔したくない。だからメールは全く利用しないし、メールがなくてもコミュニケーションに何ら支障はない」と語った。続いてリンジー・グラハム上院議員も3月8日「私は過去に一度もメールを送ったことがない。それを使うと、過去に送ったメールの一つひとつが保持されてしまうからだ」と NBCのニュース番組で語った

私に比べてヒラリーは軽率だった、と彼らは主張したかったのだろう。しかし、それは少し奇怪にも見える映像だった。ヒラリーが国務長官の仕事でメールを利用していたこと自体には何ら問題がなく、むしろ使うなというほうが無茶な注文である。批判すべきは、彼女が「国務長官であるにも関わらず、私用のアカウントを公務で勝手に利用していたこと」だった。しかし共和党のトップクラスの大物であるマケインとグラハムの批判は、まるで「議員たるもの、公私ともにメールなど利用するべからず」と指南する頑固な年寄りのようでもあった。

そんな彼らの発言に対しては「一度もメールを使ったことのない議員が、熾烈なサイバー攻撃に晒されている米国のセキュリティに取り組めるのか? スノーデンの告発以降、注目されつづけている『米国の国家保安と国民のプライバシーの関係』を彼らに理解できるのか?」という、もっともな反発があった。

特にグラハムは当時、「Senate Judiciary Subcommittee on Privacy, Technology and the Law(米上院司法委員会の分科委員会のひとつで、民間団体のプライバシーやテクノロジーの慣行を監督する組織)」のメンバーだった。メールを使ったことのない彼が、その監督業務をどうやって担うのだと冷笑されるのも道理で、「彼らはサーバーやアカウントなどの言葉の意味を知らぬままヒラリーを批判しようとして、あのようなコメントを発したのではないか」「彼らはメールを使わないのではなく、使い方を知らないだけだ」といった悪口まで囁かれる始末となった。たとえば英ITメディア『The Register』は3月9日、グラハムを「ラッダイト(テクノロジー嫌悪者)」と呼び、「ヒラリーの私用メールよりも、そちらのほうが心配だ」という表現で記事を締め括っている。

ペンスによる大統領選挙直前のコメント

とはいえ共和党の議員たちが皆、マケインやグラハムのように的外れでアナログな批判をしていたわけではない。的確なコメントで、ヒラリーの責任を追求しようとした議員や有識者たちの数も少なくなかった。

そして本稿の主役、現副大統領のマイク・ペンス(元インディアナ州知事)も、その一人だ。とりわけ彼は、ヒラリーの私用メール問題を長期にわたって根気よく訴えてつづけてきた人物である。たとえば2016年のFBIの再捜査が発表されたあと、つまり大統領選の直前にも、彼はCBSのニュース番組に出演して辛辣なコメントを発していた

CBSのニュース番組に出演し、ヒラリー私用メール問題について語るマイク・ペンス

その番組の中で、彼は「今回の再捜査は喜ばしいことだが、そもそもFBIが7月に『ヒラリーを告訴しない』と判断をしたこと自体が極めて不公平だった」と語り、「米国の市民は、このようなダブルスタンダードにウンザリしている」「それこそがまさに、我々トランプチームが代弁してきた『国民の苛立ち』である」と説明した。

その当時、ペンスは大統領選に向けてトランプ候補のサポート役を務めていた。彼はヒラリーの私用メール問題を取り上げることによって、「利権まみれで嘘つきのヒラリーよりは、政治経験のない馬鹿正直なトランプのほうがマシなのかも」と考えはじめていた一部の有権者の背中を押し、トランプへの投票をいざなう役割を果たしていたと言えるだろう。ちなみに彼は次のようなツイートも発信している。


「FBIが、クリントンの私物のメールサーバーに対する捜査を再開したことは賞賛に値する。なぜなら法の上に立つものなど一人もいないからだ」

そして先日、ペンスの私用メールに関するニュースが報じられたのは、このテレビ出演から4ヵ月後のことだった。つまり米国市民にとって、「ヒラリーの私用メール問題を最後まで追求し、彼女は大統領に相応しくないと訴えつづけたペンス」の記憶はまだまだ新しい。いまや副大統領となったペンスによるこの不祥事が、大きく注目を集めたのは当然の成り行きだった。
 
後編に続く




江添 佳代子

江添 佳代子

ライター、翻訳者。北海道生まれ、東京育ち、カナダ・バンクーバー在住。インターネット広告、出版に携わったのち現職。英国のITメディア『The Register』のセキュリティニュースの翻訳を、これまでに約800本担当してきた。

THE ZERO/ONEの記事を中心に、ダークウェブをテーマにした『闇ウェブ』(文春新書)の執筆に参加。


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