トランプ政権のへっぽこセキュリティ事件簿 (2) Galaxy S3を使い続けるリスク

江添 佳代子

February 9, 2017 08:00
by 江添 佳代子

「株式市場が動く」以上のリスク

『WIRED』は1月25日、トランプ大統領の古いスマートフォンで送受信されるデータの安全性を懸念する記事を発表した。そのスマートフォンに悪質なリンクを含んだスピアフィッシングのメールが送られ、それをトランプがクリックしてしまった場合(※)、攻撃者はどれほど多くのことが可能になるのか。また、そのスマートフォンにインストールされている(アップデートに対応していない)脆弱なアプリを悪用すれば、さまざまな追跡行為も可能になるだろうと同誌は指摘した。

一方、暗号界の重鎮、ブルース・シュナイアーが真っ先に指摘したのは、フィッシングメールによるマルウェア感染で漏洩するデータの問題ではなく、そのスマートフォンがいかなる人物からも盗聴されるという可能性だった。「偽造メールのリスクは確かにある──それは株式市場を簡単に動かしかねない──しかし、それよりも大きなリスクが盗聴だ」とシュナイアーは記した。さらに彼は、その端末にマイクロフォンがついている以上、それは「持ち主の通話」だけでなくホワイトハウス内部の音声を盗み聞きする盗聴器のような役割を果たすかもしれない、という点も懸念している。
 
※ フィッシングは通常、どんなに念入りな人物でも引っかかるようなソーシャルエンジニアリングの手法が凝らされるものだが、「セキュリティに疎いうえ、かっとなって行動しやすい人物」を挑発するためのメールが送られたなら、その成功率は非常に高くなるだろう。

開発者たちの溜息

シュナイアーが指摘したとおり、国の首脳たちの会話を盗聴したいと望む諜報機関は世界中に存在している。実際に米国のNSAは、ドイツのメルケル首相がプライベートで使っている携帯電話まで盗聴していた。それがスノーデンの内部告発によって暴露されたとき、オバマはメルケルに正式な謝罪を行っている。

この謝罪事件の影響もあってか、一部のメーカーは数年前から、高い安全性を求めるユーザーのための「セキュリティに特化した個性派携帯電話」の開発に乗り出してきた。それらは独自のアイディアで様々なセキュリティの追加機能を実装している。たとえばボーイング社が開発した「政府用・軍用携帯電話Boeing Black」は、物理的に分解を試みられたとき自壊する機能まで備えた、スパイ映画さながらの設計だ(参考:開発が進む政府・軍用向け「安全な携帯電話」とは?)。

しかし、おそらく世界の誰よりも盗聴の危険性を考慮しなければならないはずのトランプ大統領は、「セキュリティ重視型の携帯電話」を使うどころか、側近たちのアドバイスに逆らってまで自前のスマートフォンを使っていた。最先端の技術でセキュリティ問題に挑んでいる開発者たちにとっては、なんとも悲しい現実だ。しかも彼が手放さないスマートフォンというのが、いまや一般人ですら使わないほど古いGalaxy S3だったというのは、もう脱力せずにはいられない話だろう。
 
ちなみにオバマ前大統領は2008年の就任時、NSAがセットアップしたBlackBerryの携帯電話を与えられた。この携帯電話は「多くの機能が削ぎ落とされ、追加の暗号化レイヤーが搭載されたもの」だったと伝えられている。それから8年後の2016年、ようやくオバマはスマートフォンの利用を許可された。しかし、そのスマートフォンはセキュリティ上の懸念からほとんどのアプリが取り除かれており、写真撮影はおろかテキスティングや通話もできなかったため、「まるで3歳児が使うオモチャの電話だ」とオバマは語っていた
 
その3に続く




江添 佳代子

江添 佳代子

ライター、翻訳者。北海道生まれ、東京育ち、カナダ・バンクーバー在住。インターネット広告、出版に携わったのち現職。英国のITメディア『The Register』のセキュリティニュースの翻訳を、これまでに約800本担当してきた。

THE ZERO/ONEの記事を中心に、ダークウェブをテーマにした『闇ウェブ』(文春新書)の執筆に参加。


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