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映画『スノーデン』を3倍楽しむための7つのポイント

牧野武文

January 30, 2017 08:30
by 牧野武文

オリバー・ストーン監督の新作『スノーデン』が1月27日、日本でも公開になった。本サイト連載「ハッカーの系譜」でも扱った人物で、NSAの盗聴監視プログラム「プリズム」の存在を暴露した内部告発者だ。本人は、米国に戻り、公正な裁判を受けることを希望しているが、その環境が整っていないとして、ロシアに長期滞在している。

驚いたのが、娯楽映画としてちゃんと成立していることだ。何の前提知識もなく、情報技術や情報戦についての知識が全くない人が観ても、静かなる英雄の物語として充分に楽しめる。一般的に、この手の映画の場合、仕組みやシステムを解説しなければならず、そこが退屈な場面になってしまいがちだが、ニュース映像をコラージュしてうまく処理し、スピード感を失うことなく、ラストシーンまで進んでいく。

美しい音楽が流れ、スノーデンが感動的な長いスピーチをし、それが終わると観客全員がスタンディングオベーションで拍手をするというハリウッド映画お約束の感動シーンまである。ベタではあるが、娯楽商業映画としての面白さを支えている。

『スノーデン』 1月27日(金)全国ロードショー 配給:ショウゲート ©2016 SACHA, INC. ALL RIGHTS

ただし、THE ZERO/ONEの読者には、ところどころ違和感を感じる箇所が出てくるだろう。この映画は冒頭に実話のDramazationであるというただし書きが表示される。日本流に言えば「実話をもとに脚色をしたフィクションです」というもの。そのような映画に「あそこが事実と違う」と言ってみたところで意味はない。制作側は、そんなことは百も承知で、事実よりも映画のドラマツルギーを優先させているのだ(事前取材が綿密に行われたことは映像からも伝わってくる)。

そこで、次のような点を注目しながら映画を観れば、2倍、3倍と楽しめるポイントを7つ紹介したい。

ポイント1 スノーデンはなぜ内部告発をするに至ったのか

CIAやNSAに勤務する愛国者であったスノーデンがなぜ国益を損ねてまで、内部告発をするに至ったのか。映画の中では、NSAの監視の目的が国防ではなく、世界を支配することにあったと悟ったからということになっている。

日本の横田基地(報道では三沢基地のエシュロン関連施設だと言われているが、エシュロンの名前を出すことに気を使ったのだろうか?)で、日本の自衛隊高官に日本国民全員の盗聴監視の依頼をして「日本の法律はそれを許さない」と拒否されるシーン、「日本の電力や通信などの主要インフラネットワークには、すでにNSAによってマルウェアがしこまれていて、いつでも制御することが可能なのだ」とスノーデンが教えられるシーンがでてくる。さらに、欧州各国も同じ状態であることをスノーデンは知る。

さらには、スノーデン自身の身辺調査の延長線上として、同居している恋人の私生活まで監視されていることを知り、義憤と私憤にかられて内部告発を決意することになっている。

映画的にはこういった筋立てが映えるのだろうが、筆者としては現実のストーリーの方がスノーデンの生真面目さにうまく合うような気がする。スノーデンが内部告発した盗聴監視プログラム「プリズム」は、グーグルやマイクロソフト、アップルといった主要IT企業の”協力”を得て、サーバー上の通信を監視するものだった(各企業は協力したことを否定している)。しかも、法で許されている外国人の通信だけでなく、違法となる米国人の通信まで監視していた。

違法行為を平然と行い、しかもそれに世界的に有名なIT企業が協力をしている。その現実にスノーデンは憤りを感じた。スノーデンのあの生真面目そうな顔を見るたびに、この憤りの方が、自然だと思う。

ポイント2 スノーデンはどうやって情報を持ち出したのか

映画では、機密情報にアクセスできる同僚の端末を使い、マイクロSDカードにコピーして持ちだす。退出時のボディーチェックは、あるうまい、そして映画的な方法でクリアする。しかし、現実にこうであったとはとても思えない。今日では、市役所のパソコンですらカードスロットやUSBスロットは無効化されているのに、NSAの業務端末のカードスロットが利用できるとは思えないのだ。例え使えたとしても、マイクロSDカードを読みこんだ時点で、管理部宛てにアラートの通知がされるだろう。

また、スノーデンが持ちだした情報は膨大な量で、1回ではなく、何回にも分けて持ちだしている。映画の中の方法では、2回目にはどうやっても露見してしまうはずだ。しかし、その手口はスノーデンも語っていないし(持ちだした情報の範囲を公表せず、まだ隠し持っているのではないかと思わせることで、スノーデンは自分の命を守っている)、NSAも公表していないので、まったくわからないが、それはもっと高度な手法だったのではないかと思われる。

ポイント3 パートナーになぜ英国紙を選んだのか

スノーデンが内部告発のパートナーとして選んだのが、英国紙「ガーディアン」のコラムニスト、グレン・グリーンウォルド。なぜ、スノーデンが英国紙を選んだのかは映画の中では一切触れられていない。なぜ、米国紙ではなかったのか。

それは、ドナルド・トランプ大統領がCNNを「フェイクニュース」と呼んだように、米国有力紙は腐敗しているというのが愛国者たちの共通認識だからだ。米国有力紙は政権や国益に影響を与える記事を報道するときは、ワシントンと”事前協議”をする。それも高級レストランの個室で。というのはよく知られたところで、政権側に都合のいい記事に捻じ曲げられてしまう危険性があった。そこで、スノーデンは英国系新聞「ガーディアン」のグリーンウォルドにかなり以前からコンタクトを取ろうとしていた。

この”腐敗”は、日本にも影響しているのではないか。なぜなら、ガーディアンが報道した監視プログラム「プリズム」については、ワシントンポスト紙も情報を把握し、”ワシントンと事前協議”をした上でほぼ同時に報道している。しかし、発信元のスノーデンが協力しているガーディアンの記事の方がメインであることは間違いない。しかし、米国の報道記事でも日本の報道記事でも「ワシントンポスト紙などが報じたプリズム」と表現されることが多く、ガーディアンの名前がでてこない記事がけっこうある。単に、ワシントンポストの方が有名だからという理由なのかもしれないが、ちょっと気持ちが悪い。

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ポイント4 内部告発のメインは「プリズム」

映画の中では、FISA秘密裁判所(盗聴のための令状を秘密、非公開でとれる裁判所)の暴露がメインであるかのよう描かれているが、ここは映画の中でも少しわかりづらいところだったのではないか。

現実のスノーデンの内部告発は「プリズム」がメインだ。映画を見る前から、このプリズムをどう扱うのだろうと筆者は思っていた。なぜなら、プリズムは主要IT企業が協力をしていると言われている監視プログラムであり、それをそのまま映画の中で扱ってしまうと、各IT企業からクレーム、場合によっては公開差し止めの訴訟を起こされる可能性もある。

そこはしっかり考えていたようで、プリズムの名は数回しか登場しないし、グーグルやアップルといった企業の名前も一度しか登場しない。しかも、「NSAは主要企業のサーバーに直接侵入」と各企業が被害者であるかのように扱われている。しかし、そうなら米国IT企業のセキュリティはどうなっているんだという話になってしまう。NSAにハッキングされてしまうようでは、同程度の技術をもち、数倍規模の人海戦術がとれる人民解放軍にも当然侵入されているはずだ。まあ、ここはあくまでも商業映画なので、きっとオリバー・ストーン監督も大人の事情を優先せざるを得なかったのだろう。

ポイント5 ニコラス・ケイジとニュース映像コラージュに気をつけろ!

この映画にニコラス・ケイジがCIAのエンジニア役で出演している。このシーンは注目だ。なぜなら、テクノロジー好きなら大好きなアイテムが山ほど登場するからだ。また、時々挟まれるニュース映像のコラージュにも注目してほしい。ここにも面白いアイテムがいくつも登場する。

ポイント6 ルービックキューブに注目!

現実でも、香港のホテル「ザ・ミラ」で、スノーデンとグリーンウォルドたちが初めて落ち合うときに、ルービックキューブがスノーデンである目印として使われた。映画の中ではそれだけでなく、ルービックキューブがさまざまな使われ方をしている。ルービックキューブにも注目していただきたい。

ポイント7 『スノーデン』は終わっていない

映画では、「スノーデンはロシアで幸せに暮らしましたとさ」というハッピーエンド的な終わり方になっている。これも映画の構成としてはこうあるべきなのだろうが、現実のスノーデンは、今年第3幕が大きく展開するかもしれない。それはロシアへの滞在許可の期限が今年の7月いっぱいで切れるからだ。

もちろん、現状を打開することができず、再び滞在期限を延長するのかもしれないが、7月までに米国に帰還する可能性がないわけではないし、スノーデンとしては「公正な裁判を受けて収監される」ことが、このストーリーのラストシーンであると考えている。しかも、政権が変わり、今の大統領は愛国者のドナルド・トランプ。彼がスノーデンを愛国者の英雄と評価するのか、それともアメリカの国益を損ねた裏切り者と評価するのか、そこでスノーデンの運命は大きく動くことになるだろう。

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なお、映画では学生時代にTheTrueHOOHAを名乗っていたハッカー時代のスノーデンの話、グリーンウォルドにコンタクトをとろうと苦労する話には触れられていない。また、名前だけ登場する過去の内部告発者チェルシー・マニングやトーマス・ドレークの話に興味がある方は、ぜひ連載「ハッカーの系譜」の「エドワード・スノーデン」をお読みいただきたい。読んでから観てもいいし、観てから読んでもいい。

この映画は、なんの前提知識もない方でも娯楽映画として楽しめるし、本サイトの読者にとってはセキュリティに対する考え方を深めるという鑑賞もありだろう。さすがに小学生には少し難しすぎるが、恋人、夫婦、家族で観にいっても、損はしない映画だ。

やっぱりオリバー・ストーン監督は上手い!


『スノーデン』 http://www.snowden-movie.jp/
1月27日(金)全国ロードショー
配給:ショウゲート
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