米露サイバー戦争 2017 (7) WikiLeaksはロシアと繋がっていたのか?

江添 佳代子

January 27, 2017 10:00
by 江添 佳代子

WikiLeaksとロシアの関係は?

DNCのサーバーからデータを奪ったハッキング犯は、その盗品を一般のメディアではなく「WikiLeaks」に提供した。その結果、民主党やヒラリー候補に不利となる暴露情報はWikiLeaksを通して世界に広められたが、FBIとDHSの共同分析報告書「グリズリー・ステップ」にはWikiLeaksに関する言及が何もない。その報告書は、あくまでも「ロシアのハッキング作戦の脅威」について述べ、情報の流布に関しては触れなかった。

しかしロシア政府とWikiLeaksの繋がりを疑っている人々は少なくない。なにしろWikiLeaks創始者のジュリアン・アサンジは元々ヒラリーと犬猿の仲だ。彼はDNCのハッキング事件が起こるよりも前からヒラリー候補を露骨に批判しており、特に2016年2月以降は民主党とヒラリー候補に関する情報公開に力を注いできた(参照:米選挙戦中のヒラリーに痛手「WikiLeaks」アサンジがメール3万通を暴露)。

もしも「グリズリー・ステップ」に書かれたことが全て真実だとするなら、DNCの攻撃犯GUCCIFER 2.0の正体はロシア政府のAPT28(Fancy Bear ファンシーベア)だったということになる。つまりロシア政府は米国の政府機関から盗んだ情報をWikiLeaksに提供した。アサンジは、その情報を読みやすくなるようにせっせと加工して公開した。このスキャンダルの影響の大きさは分からないが、とにかく大統領に当選したのはプーチンのお気に入りのトランプだった。これは様々な憶測を呼ぶ流れだ。

もともと「親ロシアというよりプーチンの操り人形」とも揶揄されてきたトランプは、選挙活動でもWikiLeaksのヒラリー暴露情報を読み上げており、さらに演説の最中に「私はWikiLeaksが大好きだ!」と公言したこともある(動画)。また大統領選に勝利したあとの彼は、「ロシア政府が大統領選に干渉した」という当局者の発表に対し、「なぜヒラリーが選挙で負けたとたん、急にそんなことを言い出すのだ、おかしな話じゃないか」と憤慨した(※)。

トランプは選挙活動中に「私はWikiLeaksが大好きだ!」と発言

これらの事実から「プーチン」「アサンジ」「トランプ」と「彼らの共通の敵であるヒラリー」をキーワードにした推論が沸き上がるのは当然だろう。つまりロシアの大統領、WikiLeaksの創始者、そして共和党の候補者の三者がタッグを組んでヒラリーを倒したという可能性が疑われる。そこに「ロシアに亡命中のエドワード・スノーデン」「NSA」「ISIS」「旧ソビエト」などのキーワードが付け足され、ネット市民たちの妄想が加わった結果、壮大な陰謀論めいた仮説が生まれるのも不思議なことではない。それらの信憑性はともかくとして、「彼らがトランプの当選を招いた」とWikiLeaksを非難するヒラリー支持者の数は少なくない。
 
※米政府がDNCへの攻撃を「ロシア発」としたのは2016年6月、そして「大統領選を狙ったプーチンの仕業である可能性が高い」と発表したのは同年9月なので、「急にそんなことを言い出した」というトランプの発言は間違いである。「自分はロシアの話に全く興味がない」と強調したい彼が、わざと知らなかったふりをしたのか、あるいはテレビのニュースでさんざん流れていた当局の発表を本当に知らないまま大統領に当選したのかは不明だ。どちらも有り得る話だろう。そんなトランプも、オバマによる大統領声明発表後は、さすがに「ロシア政府がDNCをハッキングして選挙戦に影響を与えた疑い」をやんわりと認めていく方向へと態度を軟化させている。

「ロシア政府は無関係。WikiLeaksは真実を伝えただけ」

それではオバマの大統領声明、および「グリズリー・ステップ」について、WikiLeaksのアサンジはどのようにコメントしているのだろうか? 2017年1月2日、アサンジに独占インタビューを行った米FOX Newsは、その映像を翌1月3日夜10時のニュース番組で放送した。同日のFOXの記事はここから読むことができる (※自動的に動画が再生されてしまうので注意)。この番組では、次のような会話が交わされている。

インタビュアー:私は以前にもあなたに同じ質問をしましたが、いま再び尋ねたいのです。ロシアが、あるいはロシアと繋がりのある誰かが、その情報を、あなたに、渡したのですか?(一語一語を区切りながら、易しい言葉でゆっくり質問する)
アサンジ:我々に情報を提供したのはロシア政府ではありません。よって我々の繋がりに対する質問の回答は「No」です。しかし……(長い説明を始める)

このあとアサンジは、「米政府機関が12月29日に発表した様々な声明や文書には、WikiLeaksのことが何ひとつ書かれていない」という点に注目するよう促す。そして「WikiLeaksは『真実』の情報を提供した。それを見た米国市民は彼らを嫌い、その感情に従って投票した。この事実は民主党の人々にとって認めたくないことなのだ」という持論を展開していく。インタビュアーは彼の長い主張を何度も遮ろうと試みたのち、どうにか中断に成功して再び尋ねる。

インタビュアー:いま、ほとんどの米国市民が最も注目しているのは、民主党の複数の人物による主張なのです。彼らは「WikiLeaksは、大統領選挙に影響を与えるためにロシア政府と協働したのだ」と言っています。それは、果たして真実なのでしょうか、それとも間違いなのでしょうか?(ゆっくりと言葉を区切りながら)

アサンジ:完全に間違いです。そしてあなたも彼らの主張を注意深く読めば、彼らがそのように明言していないこと(注:民主党や当局者が具体的にWikiLeaksの名を出していないこと)に気づくはずです。これは奇妙な話で……

独占インタビューを行ったFOX「Assange: Russian government not the source of WikiLeaks emails

ちなみに、このインタビュアーはFOXの大御所ホストであり、保守派の政治評論家であり、また数々の書籍の著者でもあるショーン・ハニーティだ。大統領選挙のキャンペーン中、ハニーティが自身の冠番組にトランプを何度も登場させ、彼のプロモーション活動に貢献したと評価されていることは指摘しておくべきだろう(一例:2016年8月のNew York Timesの記事)。
 
(最終回に続く)

江添 佳代子

江添 佳代子

ライター、翻訳者。北海道生まれ、東京育ち、カナダ・バンクーバー在住。インターネット広告、出版に携わったのち現職。英国のITメディア『The Register』のセキュリティニュースの翻訳を、これまでに約800本担当してきた。
THE ZERO/ONEの記事を中心に、ダークウェブをテーマにした『闇ウェブ』(文春新書)の執筆に参加。

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