連載:ハッカーの系譜⑦ビル・ゲイツ (3/7) ママ!この人に言ってあげてよ。いつもはちゃんと動いているんだって!

牧野武文

August 23, 2016 09:00
by 牧野武文

同じ頃、ゲイツはレイクサイド・プログラマーズ・グループとは別の活動として、アレンと二人でトラフォデータ社を設立していた。お遊びの会社ではなく、きちんと登記をした本物の会社だった。しかも、シアトル市交通局や他の自治体、オレゴン州の企業に食いこみ、さまざまなプログラミングの仕事をしていた。ゲイツは、お得意の「いきなり電話しまくり」作戦で仕事をとっていたが、母メアリーの上流階級に対する幅広い人脈と、父ビル・ゲイツ二世という有名弁護士が法律顧問としてバックアップしているという社会的な信用度も大きかった。ゲイツは、こういう自分がもっているリソースを遠慮なく活用して、トラフォデータ社の仕事をとってきていた。

高校3年生のビル・ゲイツ 母親に助けを求める

多くの地方自治体では、道路計画を立てるために交通量の調査をおこなっている。当時一般的な方法は、調査地点の道路にゴムホースを敷くことだった。通過する自動車は、このゴムホースを轢いていく。圧搾空気で満たされているゴムホースの端には、カウンターがついていて、自動車が通過するたびに、紙テープに通過記録とその時間を16進数で記録する。この穴の空いた紙テープを回収し、コンピューターに入力をするため、10進数を使うパンチカードに打ち直すという面倒な作業をしていた。しかも、そのデータのグラフなどを作成し、視覚化するプログラムのできが悪く、手間のかかるわりに、さほど役立たない事業になっていた。作業委託価格も高止まりしていた。

ここに目をつけたゲイツは、さまざまな手段で自治体の担当者と面会し、既存の委託業者よりも速く結果をだし、なおかつ安く作業を請け負えると交渉した。速く安くできる秘密は、ゲイツのプログラミングにあった。大量のデータを無駄なく高速に処理することができ、出力は5分ごとのグラフの形にすることができた。

ただし、紙テープからパンチカードへの転記は、人手に頼るしかなかった。そこで、ゲイツはレイクサイドスクール内でアルバイトを募集した。暇な高校生を低賃金で雇って、転記をさせたのだ。人件費は、1日分のアルバイトで50セント。そうしてつくった集計を提出して、トラフォデータ社は2ドルの収入になる。年間売上は、730ドル、人件費は182.5ドル。差し引き利益は、547.5ドルだった。さほど大きな売上にはならないが、ゲイツは同じシステムで他の自治体にも売りこみをはかり、トラフォデータ社は、高校生のお遊びビジネスではなく、ささやかながら利益を産み始めた。仕事が軌道に乗ると、ゲイツは業務の拡大とは別に、コストを圧縮する方法を考え始めた。問題になるのは、紙テープからパンチカードへの転記を人手に頼っていることだった。時間もかかるし人件費もかかる。仕事量が増えてくると、必要なアルバイトを確保するために時間を割かれる。アレンは、紙テープを直接読みこみ、コンピューターに入力するハードウェアをつくろうと提案した。そのために、発売されたばかりのインテル社の8008チップを使い、このリーダーを開発した。

Intel 8008チップ Photo by Wikipedia

このリーダーの他に、16進数を10進数に変換し、パンチカードに入力するプログラムを開発する必要がある。しかし、8008チップそのものが高価で、高校生には手に入れづらいし、そもそも手に入れても、8008のプログラミングをする環境などどこにもなかった。そこで、アレンは、PDP-10上で、まず8008エミュレーターをつくった。このような仮想環境で開発することで、まだ手にしていない8008用のプログラムを開発した。この手法は、後のBASIC開発でも使われ、マイクロソフト社の伝統的な手法のひとつになった。

人件費と人事管理の手間が不要となり、利益幅は大きく増えた。集計結果も以前より早く提出できることになり、顧客である地方自治体からの評判も上々だった。トラフォデータ社はトータルで2万ドルの収益をあげたという。

ゲイツは、高校3年生になっていて、ビジネスの場ではすっかり大人になっていた。しかし、私生活の面では高校生とは思えない子どもらしさを残していた。母のメアリーには、こんな記憶があるという。ゲイツは、地方自治体の担当者を自宅に招き、自宅のダイニングで、システムのデモンストレーションをおこなうことが常だった。あるとき、なぜかコンピューターがクラッシュしてしまい、デモストレーションに失敗してしまった。すると、慌てたゲイツは大きな声で叫んだ。「ママ!この人に言ってあげてよ。いつもはちゃんと動いているんだって!」。

肉食系ビジネスマン、ビル・ゲイツ

年より若く見えるゲイツは、高校生らしい活動……ダンスパーティーや女の子とのデートでは、見た目以上に子どもだったが、ビジネスの場ではすでに老練なビジネスマンのようだった。

父親は、ゲイツ家の教育方針に従って、夏休みにゲイツをワシントンに送りこんだ。ブロック・アダムズ下院議員と渡りをつけ、ゲイツをインターンとして議員事務所で雇ってもらったのだ。社会勉強をさせるつもりだった。その頃、共和党では大統領選指名候補をめぐって、ジョージ・マクガバンとトーマス・イーグルトンが競っていた。ゲイツは、250ドルをだして、両候補のひとつ5セントのバッジを5000個も大量購入した。共和党の全国大会で、指名候補はマクガバンとなり、イーグルトンは敗れた。当然、イーグルトンのバッジは販売されなくなる。すると、イーグルトン候補のバッジには希少価値が生まれ、マニアのコレクターアイテムとなる。ゲイツは手元にある2500個のイーグルトンのバッジをマニアにひとつ25ドルで売り、数万ドルの利益を得た。トラフォデータ社で稼いだ利益を遊ばせたりはしない。投機的な投資をしてでも活用して、資産を増やす。ゲイツはすっかりビジネスの魅力に取り憑かれていた。

ただし、脇英世氏は著書『ビル・ゲイツI』の中で、このエピソードは眉唾ではないかと疑っている。このエピソードは、ゲイツ本人も語っているがいろいろ辻褄の合わない点もある。似たようなことはあったのだろうが、ゲイツ本人が冗談交じりに大げさに話したことが、さらに尾ひれがついて伝わったというのが実際のところなのかもしれない。

高校の時間割プログラムを作成する

夏休みが終わり、レイクサイドスクールに戻ったゲイツは、今度はロジック・シミュレーション・カンパニーを設立した。レイクサイドスクールの仕事をするためだ。レイクサイドスクールでは以前から時間割を組むのにコンピューターを使っていた。米国の高校では、大学と同じように、自分の好きな授業を選択することができる。しかし、同じ時間におこなわれている授業はどちらかしか出席できないので、生徒の希望を見て、なるべく多くの生徒が希望する授業にでられるように、授業スケジュールを組まなければならない。教室の割り振りによって、授業に出席できる定員も違ってくる。さらに、男子校だったレイクサイドスクールが共学になったといっても、実態は女子校のセントニコラススクールと合併したにすぎない。ふたつの学校は、10km以上も離れているので、教室の移動にも時間がかかる。このようなことを加味しながら、授業スケジュール、出席者の名簿をつくるのは、たいへんな仕事で、手作業でやっていると数日もかかっていた。

そのため、レイクサイドスクールでは、数学教師が中心となって、新しい効率的な時間割作成プログラムの開発を始めていたが、この教師が飛行機事故で急逝してしまった。

この話を耳にしたゲイツは、自分たちを売りこみ、ロジック・シミュレーション・カンパニーを設立したのだ。レイクサイド・プログラマーズ・グループの3人(エバンズはこの年、登山中の事故で死亡している)は、この仕事を見事にやり遂げ、4200ドルの利益をあげた。

ゲイツは、この授業スケジュールプログラムに、裏機能も組みこんでいる。高校3年生のほとんどの生徒は、火曜の午後にできるだけ授業がないようにしたのだ。そのため、3年生は火曜の午後は街に遊びにいけるようになった。3年生たちは、これを喜び、「火曜クラブ」というTシャツをつくり、街に繰りだす者もいた。

きわめつけは、ゲイツ本人のための機能だった。ゲイツはプログラムに「男は自分1人で、後は女の子だけ」というクラスをつくる機能を組みこんだ。実際に、男子はゲイツ1人で、後は10数名の女の子だけという英語のクラスが生まれた。

しかし、ゲイツは女の子とはうまくつきあえなかったようだ。ゲイツが初対面の女の子と交わす会話は「車はなにが好き?」「どんな音楽が好き?」というものではなく、「君のSATの得点はいくつ?」だったからだ。SATは大学進学のための共通試験だ。ゲイツは、この頃から女性に恋人ではなくパートナーであることを求めていたようだ。

もう1人の盟友、スティーブ・バルマーとの出会い

自治体向けのシステム開発をしていたクリーブランドのTRW社は、大きな問題を抱えていた。コロンビア川の水力発電を、コンピューターで自動制御するシステムを開発していたのだが、暗礁に乗り上げかねない状態になっていた。

リアルタイムで各地域の電力需要を監視し、それに合わせて、水力発電所の発電量を自動制御するプログラムの開発は順調だったが、それを動かすPDP-10のシステムのTOPS-10にバグが多く、そのせいでプログラムがたびたびフリーズしてしまう。契約では99.9%の稼働時間を確保しなければならなかったが、バグだらけのシステムのため、実現できずにいた。このままでは多額の違約金を支払うことになりかねない。そのため、TOPS-10のバグを独自に修復する必要に迫られた。しかし、TRWのエンジニアたちは、TOPS-10については詳しいわけではない。TOPS-10のエキスパートを雇う必要があった。それも、設計などに詳しい学者的な専門家ではなく、どのようなバグがあり、どうすればバグをフィックスできるかという現場での経験を豊富にもっているエンジニアが必要だった。

TRWのエンジニアがさまざまな資料を探っていくと、倒産したCCCの資料の中にTOPS-10の「問題点報告書」を発見した。そこには具体的なTOPS-10のバグの事例が300ページにもわたって報告されている。しかも、そのバグを発見しているのは、ほとんどがゲイツとアレンだった。

TRWは、このTOPS-10のバグを熟知する二人を雇用しようと考え、連絡をとった。条件は週給165ドルだった。当時としては、破格の給料だ。ゲイツは乗り気になり、レイクサイドスクールを休学してこの仕事をすることにした。すでにワシントン州立大学に進んでいたアレンも、大学が面白くなく、その場で大学を中退して、この仕事を引き受けた。2人は、いっしょに本格的に起業したいと話し合っていたので、この仕事を足がかりにするつもりだった。

ゲイツは、この期間にプログラマーとして鍛えられたという。TRWのエンジニアたちは、TOPS-10のシステムについてはあまり知識がなかったものの、プログラミングに関してはプロフェッショナルな人ばかりだった。ゲイツとアレンの才能をひと目で見抜き、彼らが書くコードをていねいに添削し、アドバイスしていった。

ゲイツとアレンは、この仕事が気に入った。給料はいいし、多くのことが学べる。2人はこのままこの仕事をしばらく続け、起業のチャンスを探ろうと話し合った。

しかし、ここでゲイツの両親がこの計画に強硬に反対してきた。大学だけはいっておいた方がいいと主張したのだ。ゲイツの成績であれば、ハーバード大学に進学できるのは明らかだった。ハーバード大学で、ゲイツが望むことが学べるかどうかはわからなかったが、そこで培われる人脈が重要だと説いたのだ。

父の忠告に従って、“しぶしぶ”ハーバード大学法学部に進学したゲイツは、父の忠告がほんとうであったことを思い知らされた。大学の寮「カリアハウス」で、スティーブ・バルマーと知り合ったからだ。

その4に続く




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