©Praxis Films ©Laura Poitras

正義の告発者か買収されたスパイか スノーデンの素顔に迫るドキュメンタリー映画『シチズンフォー スノーデンの暴露』

西方望

June 13, 2016 12:00
by 西方望

内部告発や情報流出が、企業や政府などの驚くべき実態を明らかにするというのは珍しい話ではない。例えばタックス・ヘイブンの内幕を覗かせたパナマ・ペーパーズはまだ記憶に新しいことと思う。史上最も名高いのは、マスコミへの内部情報提供に端を発し、アメリカ大統領の辞任にまで至ったウォーターゲート事件だろう。これ以降アメリカでは、「〜gate」というのがスキャンダルを意味する接尾語になったほどだ。

だがウォーターゲート事件は、「大統領の犯罪」というインパクトは大きいものの、規模としてはたかが知れている。アメリカ政界内部に留まる問題にすぎず、日本を始め諸外国には全く影響がなかったと言っていい。「史上最大」の内部告発ということであれば、おそらくダニエル・エルズバーグによるペンタゴン・ペーパーズの暴露だろう。トンキン湾事件がアメリカ側の挑発によって起きたことなどベトナム戦争の実態を明らかにし、戦争終結にも大きく寄与したとも言われる。

これに匹敵するか、規模としてはさらに大きいと思われるのがエドワード・スノーデンによる暴露だ。2013年、CIAやNSAのために働いていたスノーデンは、主としてNSAの物である大量の機密文書をジャーナリストに提供する。これが公表されたことにより、アメリカや協力国の情報機関がさまざまな違法・不当な情報収集を行っていた事実が明らかとなった。NSAはイギリスGCHQなどと協力し、非友好国だけでなく同盟国に至るまで、政府職員・政治家・活動家など極めて多数の国民の通話やインターネット通信を監視および記録していたのみならず、アメリカ国民でさえ違法に監視対象としていた。その手段と規模には驚くほかはない。大手電話会社や多数のインターネット企業がNSAに情報提供を行っており、NSAは文字どおり世界中の情報を収集・蓄積・分析することができたのだ。

6月11日から公開されている『シチズンフォー スノーデンの暴露』はこの史上最大のスキャンダルを追ったドキュメンタリー映画だ。話はNSAの監視に対するスノーデン以前の告発からはじまる。そして、以前より政府批判などの記事を執筆していたジャーナリストのグレン・グリーンウォルドと、この映画の監督であるローラ・ポイトラスに、スノーデンが「CITIZENFOUR」を名乗って接触し、香港で実際に会見する様子が詳細に記録されている。大事件の発端から映像が残っているというのは珍しいことであり、ある意味「劇場型」の事件と言えるかもしれない。むろん、何かあった場合の「保険」として映像を残す、という理由もあったのだろうが。映画の半分ほどを占めるのが、この会見を初めとしたスノーデンの会話だ。そしてスノーデン情報が報道され、それにより世界で巻き起こったさまざまな影響が描かれていく。最後はロシアに脱出したスノーデンが恋人と再会し暮らしている様子が映され、さらなる暴露情報があることを匂わせて映画は終わる。

スノーデンが暴露した情報の内容についても簡単に説明されているが、ほんの概要だけであり、その意味では食い足りない。だが、詳細な技術情報などを解説するのはそもそも映画の任ではなく、ドキュメンタリーとしてはこれで十分だろう。興味がある人は書籍やネットを見れば済むことだ。最大の見所は、「エドワード・スノーデン」そのものと言ってもいいかもしれない。スノーデンの名と顔は世界に知らぬ人とてないほど有名なものとなったが、今までその「素顔」はなかなか見えてこなかった。たびたびインタビューに応じたりビデオメッセージを発したりはしているものの、それはやはりカメラの前で大勢に話すことを意識したものであり、エドワード・スノーデンという個人がどういう性格なのか、何を感じたのかといった、「人間」としての部分はわかりにくい。このドキュメンタリーは、それが垣間見える貴重な物と言えるだろう。スノーデンの顔はお馴染みでも、それが自分の言葉を語るのは今までなかなか見られなかった。

香港でのスノーデンとグリーンウォルドの初会見の様子は、グリーンウォルドの著書『暴露 スノーデンが私に託したファイル』でも詳しく描かれているが、やはり映像は情報量が段違いだし、スノーデン自身の生の言葉も聞ける。これまでのスノーデンの印象は、インターネットと共に育ち、インターネットの自由を愛するナイーブな青年というものだが、映像もそれを裏付ける。例えば、自身を語る際の「マスコミは人格に焦点を当てすぎ」「人格ばかり強調されて論点が逸らされる」といった発言は、これまでネット上での論争が人格攻撃に発展してしまう事例を何度も見てきて、それを心配しているのではないかと思わせる。政府による不当な監視が行われていることに対する怒りに加えて、インターネットへの愛がスノーデンをこの行動に走らせたのだろう。もちろんこれが演技だとか、あるいは誰かに使嗾されてそのように思い込んでいるだけ、という可能性も十分にあり得るが、少なくとも映像のスノーデンは、こういった印象と矛盾せず、狂信者的な部分は全く見られない。しかしそれがきれい事に聞こえてしまうのも事実で、勘ぐる人は余計に勘ぐってしまうだろう。

面白いのは、当初スノーデンが警戒し緊張していることだ。これは『暴露』にも少し描かれてはいるが、実際に映像を見るとその様子がよくわかる。盗聴器を探したり暗号化に気を配ったりするのは当然だろうが、ペンが落ちただけで過剰に笑ったり、ホテルの火災報知器のテスト(何となく疑問は残るのだが)にビクビクしたりと、おびえてると言ってもいいほどだ。スノーデンはこの時点では自分がNSAに疑われるはずはないと考えていたのだろうが、それでもやはりNSAの力に対する恐怖心は払拭できなかったのだろう。あるいは、後ろめたさの表れであると見る人もいるかもしれない。なおスノーデン情報が報道された後は「怖いが解放感もある」と語っており、この緊張感はだいぶん薄らいでいるように見える。

またスノーデンが云々ではないのだが、システム管理者が通常のユーザーより高い権限を持っており、だからこそ多量の情報を入手することができた、という話は拳拳服膺すべきだろう。システム管理者が情報を盗み出そうとしたり、ネットワークにダメージを与えようと思ったら容易にできてしまう、というのはどの組織でも同じだ。NSAのような情報化された巨大組織でさえこのような事態を起こしたことからもわかるように、これを根本的に防ぐことはできないが、権限の分散やログ・通知システムの整備といった対策を十分に取る必要があると思い知らせてくれる。

スノーデンは正義の告発者なのか。アメリカに敵対する国に買収されたスパイなのか。この映画は、その判断を左右する材料になるようなものではないだろう。だが、スノーデンという人間が見えてくることで、世界を動かすのは結局のところ個人個人の感情・思想・行動であると改めて気づかされる。スノーデン事件に興味のある人はもちろん、告発やスキャンダルの人間的側面について考えるのであれば、せひ見てほしい映画だ。


『シチズンフォー スノーデンの暴露』
6月11日(土)シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー
http://gaga.ne.jp/citizenfour/

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