史上最悪の闇サイト「Silk Road」黒幕裁判 (6) 創設者ウルブリヒトに終身刑が言い渡される

江添 佳代子

July 23, 2015 08:00
by 江添 佳代子

2015年5月29日、ニューヨーク州マンハッタンの連邦地方裁判所で、Silk Roadの黒幕「DPR」の正体として告訴されていたロス・ウィリアム・ウルブリヒト容疑者に仮釈放なしの終身刑が言い渡された。

この匿名サービスを利用した悪名高きオンライン薬物市場サイトの黒幕裁判は、世界中のインターネットユーザーやセキュリティ関係者の注目を集め、その判決に関するニュースはFBIのプレスリリースのページにも取り上げられた。

今年2月、ウルブリヒトが7つの容疑ですべて有罪判決を受けたことは「史上最悪の闇サイト「Silk Road」黒幕裁判(4)」でお伝えした通りだ。この時点で、おそらく彼に20年以上の刑期が与えられること、最悪の場合は終身刑の可能性もあることは予測されていたが、ニューヨーク裁判所のキャサリン・フォレスト判事が実際に下した判決は、その「最悪の場合」に該当するものだった。

ここで、米国における「仮釈放なしの終身刑」という刑の重さについて解説しておきたい。まず昨今の米国では、死刑の判決が下るのは極めて稀だ。そしてニューヨーク州では、この50年以上の間に一度も死刑が執行されていないばかりか、2007年以降は死刑制度そのものが廃止されている。つまり今回ウルブリヒトに下った判決は、事実上の「極刑」と言える。

ニューヨーク州の裁判で、ウルブリヒトと同様に「終身刑」が下された過去の犯罪者の例を挙げると、1993年に鉄道の列車内で銃を乱射し、6人を殺害したコリン・ファーガソンなどがいる。彼の仮釈放は315年後であるため、実質的に「仮釈放なしの終身刑」と見なして良いだろう。ちなみにジョン・レノンを殺害したマーク・デイヴィッド・チャップマンには「仮釈放の申請が可能な終身刑」が言い渡されている。ただし現時点で彼の仮釈放は実現していない。

つまり一般的な感覚で言えば、仮釈放なしの終身刑は「社会の注目を浴びた大量殺人犯(あるいは大量殺人未遂犯)」に科せられる刑だ。しかし今回、ウルブリヒトの裁判の審理には、殺人も殺人未遂も含まれていない。そのためもあってか、英語圏のSNSやニュースサイトのコメント欄では、この審判に関する論戦が激しく交わされている。

例えば、判決を支持する人々は「薬物は市民と国を破壊するもの。それを蔓延させる者に対して、いかなる刑も重すぎることはない」「ネットを悪用して無法者たちを束ねていた卑劣なギャング集団のボスに、最も重い刑がくだるのは妥当だ」などのコメントを寄せ、反対派の人々の「シリアルキラーでもなければテロリストでもない彼に、なぜ仮釈放すら認められないのだ」「たかだか違法サイトの運営者に終身刑とは、あまりに極端で馬鹿げている」などのコメントを寄せているといった様子だ。

エドワード・スノーデンとの協働でも知られるジャーナリストのグレン・グリーンウォルドは、自身のツイッターアカウントでキャサリン判事の判決を「サディスティックで非人道的だ」と表現したことで、多くの支持と反論のコメントを同時に受けることになった。また今回の判決に異議を唱える一部の人々は、オバマ大統領に恩赦を求める嘆願書の署名活動も行った。

ここで裁判そのものに話を戻そう。ウルブリヒトにこれほどの重刑がくだった大きな理由の1つには、「薬物の過剰摂取で命を落とした市民のうち、少なくとも6人がSilk Roadで商品を購入していた」という検察側の訴えがあった。この裁判の量刑公聴会では、死亡した6人のうち2人の両親が証言を行っている。それは「Silk Roadは単なる違法マーケットではなく、実際に市民の命を奪った」という検察側の主張に説得力を与えたと言えるだろう。

一方、すべての容疑で有罪判決を受けてからのウルブリヒトと弁護団はなんとか終身刑だけは免れようとあがくような戦略をとっていた。ウルブリヒトは最後の量刑審判の前に、情状酌量を求める3ページの書簡を提出している。彼は、この「Dear Judge Forrest(親愛なるフォレスト判事へ)」で始まる書簡の中で、自分がSilk Roadを立ち上げたことを深く反省し、それが自分の人生を台無しにしたことを理解していると述べたうえで、以下のように訴えた。

「あなたが私の壮年期(middle years)を取り上げるに違いないということを、私は知っています。しかし、どうか私から晩年(old age)を奪わないでください。どうかトンネルの終わりに、わずかな光を与えてください。私が健康でありたいと願う理由、いまより良い未来の日々を夢に描く理由、そして自由な世界で自身の罪をあがなうための機会を私に残してください」

だが、この悲痛な訴えも虚しく、ウルブリヒトは「せめて刑期だけは決めてほしい」という望みすら断たれた。この判決の後、彼の弁護団は直ちに上告することを宣言し、その数日後には実際に上告の手続きを取っている。

この上告で、おそらく彼の弁護団は、「2人の捜査官がSilk Roadから大量に金を巻き上げていたこと」「そのため彼の裁判が適切に行われていなかったこと」、そして「弁護団側のメインの主張(『ウルブリヒトはただのお人好しであり、首謀者は他にいる』という主張)について、その証拠の提示が認められなかったこと」を引き合いに出すものとみられている。

しかし、たとえ上告によって判決が覆されることがあったとしても、ウルブリヒトはメリーランドで開かれる別の裁判で、ふたたび法廷に立たなければならない。そこで裁かれる容疑が「6人の殺人依頼」であることを考えると、彼の前途は極めて多難だと言わざるをえない。

    史上最悪の闇サイト「Silk Road」黒幕裁判

  1. 「麻薬版eBay」の解明は進むか?
  2. 8千万ドルを荒稼ぎした(?)ウルブリヒト容疑者の素顔
  3. 取り沙汰される「Mt.Gox」との関係
  4. ウルブリヒト被告に有罪判決が下る
  5. 捜査関係者のスキャンダルが発覚
  6. 創設者ウルブリヒトに終身刑が言い渡される
江添 佳代子

江添 佳代子

ライター、翻訳者。北海道生まれ、東京育ち、カナダ・バンクーバー在住。インターネット広告、出版に携わったのち現職。英国のITメディア『The Register』のセキュリティニュースの翻訳を、これまでに約800本担当してきた。
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