ネットの自由を標榜した悲劇の天才「アーロン・スワーツ」を再考する

ケロッピー前田

May 1, 2015 16:30
by ケロッピー前田

「インターネットにおける情報の自由」という問題がある。これはインターネット創世記からコンピューターネットワークを民主的に運用するための基本的な考え方の1つだ。ハクティビスト(政治的ハッカー)と呼ばれる人たちにとっては、ネットにおける情報の自由への訴えこそが、サイバー攻撃の動機であり、正当性の拠り所だ。よく知られるハクティビストといえば、Anonymous、やエドワード・スノーデン、WikiLeaksのジュリアン・アサンジなどだが、今回は彼らほどの知名度はないが、この問題を語る上で外すことのできない人物を取り上げたい。正確にはハクティビストというよりはインターネット・アクティビストと言ったほうがいいかもしれないその人物とは、2013年1月11日に26歳という若さで自ら命を絶ったアーロン・スワーツ(シュワルツ)である。

スワーツはハッキングに手を染めたことはなく、優れたプログラマーとして10代にして頭角を現し、スティーブ・ジョブズやビル・ゲイツのようなIT業界の牽引者となることが期待されていた。それだけに、スワーツの死はコンピューターに関する当局の取り締まりが厳し過ぎるのではないかと、大きな議論を呼び、2014年の夏にラスベガスで開催されたハッカーの祭典「DEFCON」では、スワーツのドキュメンタリー『The Internet’s Own Boy: The Story of Aaron Swartz』が上映された。この作品をもとに、若き天才が、何をしようとしたのか、何がスワーツを追いつめたのか、そしてネット時代のこれからについて考えてみたい。

1986年生まれのスワーツは、年の近い3人兄弟として育ち、幼少期より理解力や学習力に優れ、3歳からコンピューターを扱いはじめた。12歳にして、のちのWikipediaを予見するネット百科事典のアイデアを「Infobase」としてプログラミングし、翌年には「ArsDigita賞」を受賞している。14歳でソーシャルネットワークの基礎となった「RSS 1.0」の立案メンバーとなり、このときすでに天才現れると注目された。また、著作権にも興味を持ち、ローレンス・レッシングの「CC(クリエイティブ・コモンズ)」の設計にも関わっている。スタンフォード大学を1年で退学すると、ソフトウェア事業を立ち上げ、英語版2ちゃんねるともいえる「Reddit」の共同開発者になったが、お金に対する執着は薄く、起業家の道から退いていく。

スワーツは、ネットを通じて、すべての人に情報が開かれていくことを理想としたが、その考えは、ワールドワイドウェブ(WWW)を開発して無料で公開したティム・バーナーズ=リーに影響されたものだった。2006年、デジタル図書館「OPEN LIBRARY」を提唱。2008年には課金制になっていた公的裁判電子記録「PACER」から独自のアプリで約2000万ページをダウンロードして一般公開し、FBIにマークされる存在になるが、この時は起訴には至らなかった。

2010年には、やはり課金制だった科学学術論文ライブラリー「JSTOR」からも大量のデータをダウンロードすることを目論んだ。この時、スワーツはMITの地下室にあるパソコン通信用配線パネルに自分のラップトップを直接接続して約400万件の学術論文をダウンロードしていた。その様子が監視カメラに映っていたことから、FBIに逮捕される。妥協する選択もあったようだが、スワーツは司法取引を拒否。2011年7月14日、イギリスでLuzsecメンバー2人らが起訴されるタイミングでスワーツも起訴された。このことから、スワーツが行った大量のダウンロードが、違法のハッキング行為のような印象を与えるものとなった。彼には35年間の懲役と100万ドルの罰金が課せられた。

© Sage Ross 2009

スワーツは10万ドルの保釈金を払って開放されると、オンライン活動団体「Demand Progress(デマンド・プログレス)」を立ち上げている。2011年10月にSOPA(オンライン海賊行為防止法案)が議会に提出されると、その反対キャンペーンの先頭に立ち、 SOPA法案に反対する市民が直接議会にコメントできるプログラムを公開し、2012年には廃案に追い込んだ。ネット活動家としては大勝利であったものの、2012年9月12日にさらに起訴状が追加され、13件の重罪に問われることになった。多額の弁護費用で資産すべてを失っていたスワーツは、公判開始を控えた2013年1月11日に自宅で首を吊った。

このドキュメンタリーを観ると、スワーツがどれほど現在のネット世界の構築に貢献し、その利点と欠点を理解することから、ネットと現実を結ぶ活動家へと転身していったかがよく分かる。また、ハクティビストといわれる人たちの活動もまた、スワーツと同様の問題を共有しているように思える。映画の中で、電子フロンティア財団(EFF)のピーター・エッカーズリーが「僕らの世代で最も優れた才能を失った」とコメントしているが、スワーツという天才を死に追いやったのは、ネット大国アメリカが抱える自己矛盾に他ならないだろう。

アーロン・シュワルツの死でみんな目が覚めた、コンピューター犯罪者に適用される厳しい法律を見直そう!(電子フロンティア財団)
Anonymous Operation Last Resort

2013年1月26日、Anonymousが、アーロン・スワーツを自殺に追い込んだことへの報復として「司法省量刑委員会」のサイトにサイバー攻撃を宣言した。
MIT website hacked by Anonymous on anniversary of Aaron Swartz suicide(zdnet)
2014年1月11日、Anonymousが、アーロン・スワーツの一周忌にMITのサイトをサイバー攻撃した。

ケロッピー前田

ケロッピー前田

1965年東京生まれ。千葉大工学部卒。白夜書房(コアマガジン)を経てフリー。90年代半ばより雑誌『BURST』で国内外のアンダーグラウンド・シーンをレポート。『ハッカージャパン』(白夜書房)では、ハッカーカルチャーやサイバー戦争について執筆して好評を得てきた。

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