史上最悪の闇サイト「Silk Road」黒幕裁判 (4) ウルブリヒト被告に有罪判決が下る

江添 佳代子

March 11, 2015 11:30
by 江添 佳代子

2015年2月4日、悪名高き薬物販売サイト「Silk Road(シルクロード)」の創始者であり、運営者であるとして起訴されていたロス・ウィリアム・ウルブリヒト(Ross William Ulbricht)容疑者に対し、現時点で掛けられている7つの容疑の全てに有罪判決が下った。史上最悪のオンライン違法市場として世界を轟かせたSilk Road、そのサイトを運営していた通称「Dread Pirate Roberts(以下DPR)」の正体として捕らえられたウルブリヒトの人物像と逮捕劇、そして始まったばかりの裁判の様子は以前にもお伝えしたが、今回は彼の裁判に関する続報をお知らせしたい。

ニューヨークのマンハッタンを舞台に、3週間以上にわたって繰り広げられたウルブリヒトの裁判は、「DPRはウルブリヒトである」という原告側の主張と、「ウルブリヒトはSilk Roadの開設に携わっただけであり、本物のDPRは他にいる」という被告側の訴えが、最初から最後まで対立したままだった。

原告側は、Silk Roadの管理人の一人として潜入していたFBIの特別捜査官をはじめ、複数の証人による数々の証拠を集めて、「ノートパソコンとWi-Fiだけを武器にSilk Roadを牛耳っていたDPR」をウルブリヒトと結びつけた。とりわけ、ウルブリヒトのコンピューターから14万4000BTCのビットコイン(逮捕時で約25億円相当)が発見されたことは、陪審団にとっても非常にインパクトが強く、分りやすい証拠だったことだろう。

さらに「ウルブリヒトがDPRとして、Silk Roadの売人(FriendlyChemistのハンドルを持つカナダ在住の男性)の殺人を企てていたこと」を示すメッセージも提示された。もとよりウルブリヒトには殺人依頼の嫌疑がかかっているものの、それは今回ニューヨークで開かれた裁判の訴因には加えられていないため、ウルブリヒトの弁護団が「irrelevant(不適切、的外れ)であり、不当な先入観を植え付ける」として言及を避けるよう事前に要求していた問題だった。

Prosecutors Accuse Ulbricht of Making Violent Threats to Protect Silk Road(The Wall Street Journal)

Alleged Silk Road boss’s lawyers want murder-for-hire evidence blocked from trial
弁護団、「6人の殺人依頼の話は避けるように」と依頼

一方、ウルブリヒトの弁護団のリーダーであるヨシュア・ドラテル(Joshua Dratel)は、「匿名性の高いTorを利用したSilk Roadのサービスで、DPRとウルブリヒトを結びつけるのは、いかに短絡的であるのか」という点を繰り返し強調した。また、破綻したビットコイン取引所「マウントゴックス」の創設者、マーク・カーペレス氏が本当のDPRだという説を展開し、さらにはウルブリヒトの知人たちに「彼がいかに無害な人間であるか」を証言させるなどして、全ての容疑を否定しようとした。

ドラテル弁護士は判決の前日の最終弁論で、以下のように発言している。
インターネット上の全てのものは、『そのように感じられるもの』とは異なっている……あなたは架空のエピソードを丸ごと作り上げることができる。あなたがここで、それが本当だったのかどうかを語ることはできない

しかし、図書館で急襲を受けて逮捕され、ノートPCを押収された際のウルブリヒトは、そのラップトップで「DPR」としてログインし、Silk Roadの仲間とチャットを行っている最中だった。その状況1つとっても、ドラテルのコメントは説得力に欠ける。結局、彼の弁護団は「彼がDPRでないこと」を決定的に示す証拠を、陪審団(おそらくは、ネット上でのなりすまし行為に詳しくない人々)に示すことができなかったようだ。

Bloombergの報道によれば、男性6人女性6人の計12人で構成されたマンハッタン地区連邦地裁の陪審団は、わずか3時間半という短い評議の後、すべての訴因についてウルブリヒトを有罪と見なした。その判決で、彼が終身刑に処せられる可能性は低くない(ちなみに彼が有罪となった7つの訴因のうちの1つは、それだけで最低20年の刑期が課せられている)。

さて、サイバーセキュリティ関係者にとって最も気になるのは、匿名性を重視して設計されたSilk Roadでどのように犯人が特定されたのかという点だろう。この問題については、『Computer World』のヨアブ・ジェイソン(Joab Jackson)氏が、5つのテクノロジー(Bitcoin、チャットのログ、暗号化、SNSなどの公的なWebサイト、サーバーへの自動ログイン)を説明しながら、それらがどのように犯人特定と結びついたのかを分りやすくまとめている

この記事を基に考察した限りで言うなら、「当局が、匿名性を守るように設計された環境を技術的に破り、ウルブリヒトを特定した」とは言い切れそうにない。ヨアブ氏も記しているとおり、ウルブリヒトはいくつもの失敗を重ねているからだ。例えば、彼の利用していたチャットサービス「TorChat」は、メッセージの暗号化を約束するものであったにも関わらず、彼はSilk Roadの管理人たちとのチャットログを「プレーンテキストのまま」自分のコンピューターに残すという方法を選んでいた。

その他にも、「ウルブリヒトがGoogle+プロファイルでシェアしていたものと同じビデオが、Silk RoadではDPRのアカウントでリンクされていたこと」「Silk Roadの宣伝が2つのフォーラムに書き込まれた際、その連絡先がrossulbricht@gmail.comであったこと」といった、非常に脇の甘い凡ミスも数多く発覚している。もしウルブリヒトが慎重に行動していたなら、果たして当局は別の手法で彼を捕らえることができたのかどうか。それは想像の域を出ない話だ。

一方で、Silk Roadの支配者DPRが、これほど初歩的なミスを重ねるのは不自然では? と考える向きもあるだろう。推察の一例として紹介すると、2013年の時点で彼のミスの詳細について報道していた『The Register』は、当時のウルブリヒトが「自分の売り物でハイになっていた」のではないかと論じている。

ともあれ、ニューヨークのSilk Road裁判は終わった。ウルブリヒトはおそらく控訴するだろうと考えられている。またドラテルは2015年3月6日、「ウルブリヒトの無罪弁明に使われる証拠や情報の提供を、米国政府は的確なタイミングで行うことができなかった。(中略)公正な裁判のやり直しを行う必要がある」と訴える公式文書を裁判所に提出した。

Convicted Silk Road mastermind Ross Ulbricht demands trial do-over(arstechnica.com)

MEMORANDUM OF LAW IN SUPPORT OF DEFENDANT ROSS ULBRICHT’S POST-TRIAL MOTIONS
ドラテルが提出した法定文書

その訴えがどのように受け止められるかは分からないが、いずれにせよウルブリヒトとSilk Roadに関する裁判はまだ終わったわけではない。彼には別の容疑、つまり「Silk Roadの運営において、6人の人々の殺害を依頼した容疑」に関する次の裁判が待っている。

    史上最悪の闇サイト「Silk Road」黒幕裁判

  1. 「麻薬版eBay」の解明は進むか?
  2. 8千万ドルを荒稼ぎした(?)ウルブリヒト容疑者の素顔
  3. 取り沙汰される「Mt.Gox」との関係
  4. ウルブリヒト被告に有罪判決が下る
  5. 捜査関係者のスキャンダルが発覚
  6. 創設者ウルブリヒトに終身刑が言い渡される
江添 佳代子

江添 佳代子

ライター、翻訳者。北海道生まれ、東京育ち、カナダ・バンクーバー在住。インターネット広告、出版に携わったのち現職。英国のITメディア『The Register』のセキュリティニュースの翻訳を、これまでに約800本担当してきた。
THE ZERO/ONEの記事を中心に、ダークウェブをテーマにした『闇ウェブ』(文春新書)の執筆に参加。

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