史上最悪の闇サイト「Silk Road」黒幕裁判 (3) 取り沙汰される「Mt.Gox」との関係

江添 佳代子

January 30, 2015 17:00
by 江添 佳代子

ウルブリヒト裁判の初日となった2015年1月13日、ウルブリヒトの弁護を務めるJoshua Dratel(ジョシュア・ドラテル)弁護士は、「Silk Roadを開発したのは、確かに彼である」ということを初めて認めたものの、これまでと同様に「彼はいかなる犯罪行為にも関わっていない」との主張を繰り返した。ドラテル弁護士による冒頭陳述は「ロス(ウルブリヒト)は薬物のディーラーではない。ロスは重要人物ではない。ロスは陰謀に関与していない」というものだった(参照:Ross Ulbricht trial Day One: ‘I DID invent Silk Road … but I’m innocent’)。

ウルブリヒトの作り上げたものは、後に「世界で最も悪名高い薬物のオンライン市場」となったが、「彼はDread Pirate Roberts(以下DPR)の正体ではない」とドラテル弁護士は繰り返し主張し、次のように語った。
「サイトを開発してから数か月後、ウルブリヒトは他の複数の個人へSilk Roadの管理を引き継いだため、その後に起きた様々な違法行為に関しては、何もすることができなかった」「捜査の手が迫っていることに気づいた当事者たちは、ウルブリヒトを陥れてDPRに仕立て、責任をなすりつけた」

しかし、検察側はそれらの話はナンセンスだと切り捨てた。ウルブリヒトが図書館で現行犯逮捕された際、彼はDPRとしてSilk Roadのサポートスタッフと情報交換をしている最中だったが、そのときの相手のスタッフはFBIのDer-Yeghiayan秘密捜査官だったというのだ。つまりDer-Yeghiayanは「数少ない内部スタッフ」の一人として、これまでウルブリヒトの行動を監視してきたということになる。ウルブリヒトの主張がやや大雑把で強引に聞こえる一方で(彼のドラテル弁護士は、ウルブリヒトがサイトの管理を譲ったという相手の名前すら挙げていない)、Silk Roadへの潜入捜査を行ったうえでウルブリヒトの逮捕に踏み切った検察側の言い分は、かなり信頼性が高そうだ。

この初日の裁判の様子を伝える報道を目にした多くの人々は、ウルブリヒトが圧倒的に不利だと考え、意外と早く決着がつくと予想したかもしれない。しかし15日に行われた公判では、ドラテル弁護士の口から爆弾発言が飛び出した。それは、「ウルブリヒトを罠にかけたSilk Roadの管理人DPRは、Mt.Gox(マウントゴックス)のマーク・カーペレスだ」という突拍子もない話だった。

Mt.Goxといえば、読売新聞の元旦一面「不正操作で99%のBitcoin消失」を飾った、あの倒産した日本拠点のBitcoin取引所である。そして前回お伝えしたとおり、Silk RoadとBitcoinの両社は非常に密接に関わっているため、まったくの無関係とは言い切れない。しかしあまりにも話が大きすぎて、信憑性があるとは考えがたい発言ではある。

ここで終われば「トンデモ話」だろう。しかし、この裁判では米国土安全保障省のジャレド・デルエギイェッドアイン氏の「たしかにカーペレスには、Silk Roadの管理者であるという疑いがかけられていた」「2012年には彼のGmailアカウントを捜査する捜査令状も申請された」「カーペレスはBitcoinの価値を高めるためにSilk Roadを運用していると考えられていた」といった驚きの発言が確認される事態となった。さらには、「私は(カーペレスが)Dread Pirate Robertsであると証明するための証拠を山ほど持っている」という宣誓供述書を特別捜査官が2013年に書いていたという事実も判明した。(念のために申しあげておくと、もちろん、これらは過去の話である。「驚きの話題」が繰り広げられた際の説明はこちら

この件に関し、当のカーペレスは「恐らくあなたを失望させるだろう。しかし私はDread Pirate Robertsではないし、過去にそうだったこともない」と速やかにツイートした。また、テクノロジー・ニュースサイト『art technica』の取材に対し、彼は次のように答えている
「その捜査は、すでに結論が出ている。だからこそ、いまSilk Roadの裁判の被告席に座っているのは、私ではない人物なのだ。私はただ、弁護士のジョシュア・ドラテルが、彼の依頼人への注目をそらすため、できる限りのことをしているのだなと感じるだけだ」

この裁判で語られた興味深い話(カーペレスにとっては、とんだ流れ弾だったかもしれないが)は、これだけではない。決定的な証拠を掴んでいると思われたSilk Roadの潜入捜査官、Der-Yeghiayan氏に対するドラテル弁護士の質問では、次のようなやりとりがあった。
「あなた自身、『DPRとされる人物が何度も変化している』と思った。そうですね?」
「これは違う人が書いた文章だなと思ったことは、はい、ありました」
「あなたは組織の人々に対し、『DPRとされる人物が4月に変わった』と話していませんでしたか? あなたは別のDPRがいると考えましたね?」
「その通りです」(彼はそのような内容のメールを同僚に送っていた)
「あなたは1ダースのアカウントを持ち、管理者権限を持っていた」
「はい」
「あなたは他の管理者たち、InigoやLibertasと通信しましたね?」
「はい」
「彼らはあなたが捜査官だとは知らなかった。他のユーザーも、誰一人としてcirrus(Der-Yeghiayanが利用したアカウント)が捜査官だと気付かなかった?」
「そうです」
「あなたは複数のアカウントを持っていた。誰も『お前は捜査官だ! 警察だ! 出て行け!』とは言わなかったのですか?」
「誰と会話しているのかという点については、常に一定の不信感がありました。我々はどのアカウントで誰が活動しているのかを知るのが難しかった時期もありましたから」
「あなたはDPRと電話で会話したことがありませんね? 普通のインターネット接続で通信したことはありませんね?」
「Torの中だけです」
(以上、2015年1月16日の『ars technica』の記事「Defense bombshell in Silk Road trial: Mt. Gox owner “set up” Ulbricht」より部分的に抜粋)

つまり「Silk Roadの内部に潜入していたDer-Yeghiayanは、DPRにあたる人物が変化したと考えたことがあったが、それを確認できなかった。また内部で働いている人々は、他のアカウントを持つ人物が誰なのかを理解しておらず(実際、Der-Yeghiayanは管理者の一人が女性であることを後に知らされて驚いている)、またDPRともTorを通した連絡しか行っていない」ということになる。

現時点でこの裁判について論じている間にも、DPRや Silk Roadに関連した人物にまつわる新たな情報は次々と噴出している。そして「本当にウルブリヒトがDPRなのか?」という問題以前に、「そもそもDPRとは一人の人間の呼称だと考えて良いのか?」という根本的な疑問を抱く人もいるだろう。Mt.Goxとの関係についても、更に新たな発言が飛び出す可能性もある。もし、FBIが描いた筋書きに曖昧さがあるとするなら、これは意外と長い裁判になるかもしれない。

    史上最悪の闇サイト「Silk Road」黒幕裁判

  1. 「麻薬版eBay」の解明は進むか?
  2. 8千万ドルを荒稼ぎした(?)ウルブリヒト容疑者の素顔
  3. 取り沙汰される「Mt.Gox」との関係
  4. ウルブリヒト被告に有罪判決が下る
  5. 捜査関係者のスキャンダルが発覚
  6. 創設者ウルブリヒトに終身刑が言い渡される
江添 佳代子

江添 佳代子

ライター、翻訳者。北海道生まれ、東京育ち、カナダ・バンクーバー在住。インターネット広告、出版に携わったのち現職。英国のITメディア『The Register』のセキュリティニュースの翻訳を、これまでに約800本担当してきた。
THE ZERO/ONEの記事を中心に、ダークウェブをテーマにした『闇ウェブ』(文春新書)の執筆に参加。

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