史上最悪の闇サイト「Silk Road」黒幕裁判 (2) 8千万ドルを荒稼ぎした(?)ウルブリヒト容疑者の素顔

江添 佳代子

January 29, 2015 16:00
by 江添 佳代子

FBIがサンフランシスコの公立図書館でロス・ウィリアム・ウルブリヒトを逮捕したのは2013年10月1日のことだった。翌日10月2日、最大の闇市場と呼ばれたSilk Roadのサイトには、サービスの閉鎖を伝えるメッセージと共に司法省やFBIのロゴが掲載された。さらにSilk RoadのBitcoinウォレットからは360万ドル相当(当時)のBitcoinも押収された。

「Dread Pirate Roberts(以下DPR)の名でSilk Roadを牛耳った人物」としてFBIが逮捕したのは、テキサス州在住の29歳の青年だった。その報道を耳にして、さっそくウルブリヒトの情報をチェックした人々の多くは唖然とさせられただろう。「闇市場のボス」として捕らえられた彼の様々な個人情報は、簡単にインターネットで検索できる状態だったからだ。あろうことか、彼は「LinkedIn」のアカウントすら持っていた。そのプロフィールの自己紹介欄で、彼は以下のように語っている。
「私のゴールは、単純に人間の知識のフロンティアを拡大させることだった」
「(しかし)現在の私は進路を変えた」
「私は、人々に対する圧力と暴力の行使を廃絶するための手段として経済理論を活用したい」
「私は、『社会制度や政府の力に頼らない生活』を、人々に直接的に体験させることに注力している」

まさに「リバタリアニストDPR」そのままの、呆れるほどストレートな主張を、彼は本名と顔写真入りでオンラインに掲載していた。正体を知られたくない黒幕の行動だとするなら、それはあまりに突飛だ。

さらに人々を驚かせたのは、ウルブリヒトの容姿だった。DPRは、匿名通信と暗号通貨を巧みに利用し、麻薬販売や殺人依頼などの凶悪な犯罪行為を重ねた男と伝えられてきた。しかしFBIが逮捕した男は、マフィアの首領にも薬物ディーラーにも見えず、またハッカーイベントにいるようなモヒカン少年や、研究者タイプの若者でもなく、まるでアウトドア派の学生のごとき健康的な、「Dread(恐怖)」という言葉の対極にあるような好青年だった。→ウルブリヒト画像検索結果

しかしDPRの容姿よりも気になるのは、「FBIが、どうやって彼を特定したのか?」という問題だ。それは薬物には何の興味のないセキュリティ関係者たちにとっても非常に重要な話題である。もしもFBIがTorの匿名化を破ったのなら、セキュリティ業界を揺るがす事件だからだ(この件に関しては、以前に掲載された西方望氏の「『ダークマーケットサイト』大量摘発の疑問 Torの匿名性は破られたのか?」も併せてお読みいただきたい)。

FBIはウルブリヒトを逮捕した際、「彼は自身の身元に関するセキュリティで、多くのミスを犯していた」「我々はSilk Roadのホストに利用されていた特定の海外サーバーを突き止めた」「法的な相互援助の要請を通し、そこにアクセスした」と発表した。彼のミスや捜査に関しては、訴状の中に具体的な説明があるものの、肝心な詳細の部分(Torを介して行われた通信を追跡したのか、それは成功したのか、相互援助とは何なのかなど)については語られていない。

2013年10月のセキュリティ業界といえば、数ヵ月前にエドワード・スノーデンが「米国諜報機関NSAのシギント能力」を暴露したばかりで、その興奮がさめやらぬ状態だった。「NSAは特定の状況下でTorを破ることができたが、原則としてその秘匿サービスを傍受することは難しかった」とスノーデンの情報が明かしたことを受け、Torの利用者数が大幅に増えた時期でもあった。そのタイミングでウルブリヒトが逮捕されたため、「おそらく米国は、Torさえも打ち崩す何らかの手段を使ったのだろう」と伝えるメディアもあった。

FBIが本当にTorを破ったのかどうかは、いまだ明確にはなっていない。だが、ウルブリヒトが逮捕され、Silk Roadが閉鎖された後、これまで正体を暴かれることのなかった同サービスの利用者たちが、世界中で続々と検挙されはじめた。米国では「ヘロインやコカインなどを販売し、Silk Roadで最も高い評価を得ていた上位1%のディーラーの一人」である40歳の人物が、英国では違法薬物を所持していた4人(50代の首謀者、20代の共謀者3人)が、スウェーデンでは大麻を販売していた2人が、同サイトの閉鎖から一週間と経つことなく逮捕されている。

もう1つ大きな影響を受けたのがBitcoinだ。Silk RoadとBitcoinの間には、切っても切れない関係がある。Silk Roadは、現在のようなメジャー通貨ではなかった時代のBitcoinの知名度を上げただけでなく、その利用者数も大幅に増やし(なにしろBitcoinを持っていなければ何も利用できないサービスだった)、その通貨が「最大手の仮想通貨」となることに大きく貢献したサイトだった。その反面、Silk RoadはBitcoinが批難される際には必ず引き合いに出される犯罪サービス、つまり「Bitcoinの面汚し」的な存在でもあった。そのSilk Roadが閉鎖された2013年10月2日、FBIがBitcoinの違法性を問うたわけではないにも関わらず、その価格は大暴落した(ただし、そのレートは比較的短い期間で持ち直したため、一部の関係者は「もはやBitcoinはSilk Roadに左右されない」とも論じている)。

ここでウルブリヒトの話題に戻ろう。FBIの訴状によれば、ウルブリヒトは違法な薬物等を売買するプラットフォームとして12億ドル以上を稼いだSilk Roadを運営し、そのうちの8千万ドルを彼自身の利益にしたという。全ての容疑を否認しているウルブリヒトは、実際のところ当局によって約14万Bitcoin(当時のレートで約120億円)を押収されているのだが、彼はそれを「個人的に所有する財産」だと訴え、返却を申し立てている。そんな彼の生活は非常に質素であり、家賃1,000ドル程度の部屋を友人とシェアして借りていた。

DPRの正体として捕らえた何とも掴みどころのない男、ウルブリヒトの裁判は始まったばかりだ。しかしその裁判では、さらに混乱を深めるような話が、続々と飛び出してきている。彼の裁判の詳細については次回、詳しくお伝えしたい。

    史上最悪の闇サイト「Silk Road」黒幕裁判

  1. 「麻薬版eBay」の解明は進むか?
  2. 8千万ドルを荒稼ぎした(?)ウルブリヒト容疑者の素顔
  3. 取り沙汰される「Mt.Gox」との関係
  4. ウルブリヒト被告に有罪判決が下る
  5. 捜査関係者のスキャンダルが発覚
  6. 創設者ウルブリヒトに終身刑が言い渡される
江添 佳代子

江添 佳代子

ライター、翻訳者。北海道生まれ、東京育ち、カナダ・バンクーバー在住。インターネット広告、出版に携わったのち現職。英国のITメディア『The Register』のセキュリティニュースの翻訳を、これまでに約800本担当してきた。
THE ZERO/ONEの記事を中心に、ダークウェブをテーマにした『闇ウェブ』(文春新書)の執筆に参加。

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