サイバー空間にも波及 『シャルリー・エブド』襲撃テロ事件の負の連鎖

ケロッピー前田

January 19, 2015 19:56
by ケロッピー前田

1月7日、フランスの風刺週刊紙『シャルリー・エブド』の編集部がイスラム過激派を名乗る2人組に襲撃され、警察官を含む12人が殺されたテロ事件は世界中に衝撃を与えた。翌日には、パリ市内で別のイスラム過激派の男が警官を射殺し、スーパーに立て籠るテロ事件も発生。これらの事件は連携しており、犯人たちはイスラム国やアルカイダとの関連を明言。9日になって、フランス軍治安部隊がパリ郊外の印刷工場で先の2人組を射殺。スーパーを包囲していた治安部隊も突入し、2つのテロ事件は終息したが、フランス国民が受けた傷は計り知れない。

『シャルリー・エブド』はイスラム教の預言者ムハンマドを題材にした風刺画をたびたび掲載し、2011年には編集部が火炎瓶を投げ込まれて全焼している。それでも編集部は方針を貫き通していた。11日、欧州首脳たちも一緒になり、約370万人もの市民がパリを行進し「表現の自由」を訴えた。TwitterやFacebookは「Je suis charlie」「I am Charlie」で埋め尽くされた。

「表現の自由」を訴えるパリ市民のパレード prochasson frederic / Shutterstock.com

こ2つのテロ事件を受けてサイバー空間でも大きな動きがあった。

最初に立ち上がったのは、匿名のハッカー集団Anonymousだ。「#OpCharlieHebdo」というTwitterアカウントが作られ、YouTubeにフランス語、ついで英語版による攻撃指令がアップされた。それは、今回の事件に関係したイスラム過激派の関連サイトに対して、徹底したサイバー攻撃を呼びかけるものだった。

#OpCharlieHebdoは、過去にフランスのテロ実行犯たちと繋がりがあったとされるフランス語のイスラム過激派フォーラムサイト「ansar-alhaqq.net」を封鎖に追い込んだとアナウンス。また、攻撃対象に対しては、DDoS攻撃でなく、データをダンプしてサイトを読めなくする方法を奨励している。標的とする900以上のTwitterアカウントをリストで公開するなどし、既に200を封鎖に追い込んだという。

一方、Anonymousによるサイバー報復に対し、イスラム支持を表明するAnonGhostが「#OpFrance」を発動し、イスラム勢力も含めた匿名のハッカーたちが参戦することで、報復合戦は泥沼と化していく。United Islamic Cyber Forceなどのイスラム系ハクティビストのグループは、ムハンマドを侮辱するサイトをハッキングし、イスラム教のプロパガンダ画像に書き換えていった。

12日には、アメリカ軍とサイバー空間での戦闘を続けるイスラム国支持のハッカー集団サイバーカリフ国(Cyber Caliphate)が、アメリカ中央軍のTwitterとYouTubeのアカウントを乗っ取り、「ペンタゴン・ネットワークはハックされた。アメリカ軍兵士よ、われわれはやって来た。背後に注意しろ。ISIS.」とメッセージを残した。この件に関して、アメリカ中央軍は攻撃があったことは認めているものの、深刻な被害はないとしている。一連のサイバー報復合戦から浮かび上がってくるのは、イスラム勢力もまたネット上における自分たちの聖域を守り、いざとなればサイバーテロも辞さないということだ。

ここで問題なのは、今回の襲撃テロ事件が現実世界ばかりか、サイバー空間においても負の連鎖を生み出しはしないかという危惧である。911テロのとき、アメリカは対テロ戦争を掲げ、アフガニスタン戦争ばかりかイラク戦争にまで踏み切った。だがイラク戦争における戦後統治の失敗は、イスラム国を生み出すなど中東問題を一層深刻化させ、世界中をテロの脅威に晒した。そして今回、フランスを始めヨーロッパ全土がイスラム過激派に怒りを露わにしている。事件後、オランド大統領はフランス空母をイスラム国空爆のために中東に向わせた。報復の連鎖は、まさにテロリストたちが望んでいたことではないのか。もしフランスの空爆によって多くの民間人が巻き添えになれば、アメリカがアフガニスタンやイラクでの戦争で犯した失敗を繰り返すことになりかねない。サイバー空間においても、911の後にアメリカ政府がネットにおける個人情報監視を強めたように、今回の事件がヨーロッパにおけるネット監視の強化に繋がる可能性が大きい。

アメリカの人気風刺画家で、現在パリ在住のロバート・クラム氏は事件後のインタビューで、「今回の件は911の時にそっくりだ。『シャルリー・エブド』はイスラムをからかって部数を伸ばしていた。風刺としてはひどいものさ」と答えている。国民感情が熱くなっているときだからこそ、体制の暴走に水をさすのが風刺画の役割だろう。

Anonymosによるテロ報復のサイバー攻撃も、無批判に体制のメディア操作に便乗しているなら危険なことだ。名もないハクティビストには、サイバー空間におけるジャッジメント(レフリー)として、イスラムと欧米の双方の矛盾や行き過ぎを暴いて欲しい。今年もまた世界にとって試練の多い1年となりそうだ。
 
関連リンク
(1)アノニマスが報復宣言 イスラム過激派のサイトをアタック開始か
(2)#OpCharlieHebdoの攻撃指令(英語版)
(3)#OpCharlieHebdoの攻撃の実態
(4)アノニマス、フランスのテロに「反撃」を宣言
(5)イスラム勢力ハッカー集団United Islamic Cyber Forceについて
(6)イスラム国を支持するハッカー集団「サイバーカリフ国(Cyber Caliphate)」が、CENTCOM(米中央軍)のTwitterとYouTubeのアカウントがハックした
(7)アメリカの人気風刺画家ロバート・クラムのインタビュー

ケロッピー前田

ケロッピー前田

1965年東京生まれ。千葉大工学部卒。白夜書房(コアマガジン)を経てフリー。90年代半ばより雑誌『BURST』で国内外のアンダーグラウンド・シーンをレポート。『ハッカージャパン』(白夜書房)では、ハッカーカルチャーやサイバー戦争について執筆して好評を得てきた。

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