ファイル共有サービス「Megaupload」創業者、キム・ドットコムの破天荒人生

江添 佳代子

December 22, 2014 15:26
by 江添 佳代子

2014年12月1日、ファイルアップロード・共有サービス「Megaupload.com」(2012年に閉鎖)の運営会社MEGAUPLOADのキム・ドットコム(以下ドットコム)CEOの「保釈取り消し」を求めていた米国政府の申請が、ニュージーランドのオークランド地方裁判所に却下された。2012年1月に逮捕され、その1ヵ月後に釈放されたドットコム氏は今回、米国の意向に反して再勾留を免れたことになる。

ドイツとフィンランドの二重国籍を持つドットコム氏は、1974年西ドイツ生まれた。1990年代からインターネット起業家として、またハッカーとしてたびたび世間を騒がせ、コンピューター不正行為、インサイダー取引などの容疑をかけられてきた。香港へ移住した彼が「MEGAUPLOAD」社を創立したのは2005年のことだ。このとき彼は自分の名前を「キム・シュミッツ(Kim Schmitz)」から「キム・ドットコム(Kim Dotcom)」に改めている。Megaupload.comは、違法アップロードの温床として問題視されつつも、1億8千万人以上の登録ユーザーを獲得し、インターネット全体で13番目の訪問数を誇る巨大サイトとなった。ピーク時には、世界の全トラフィックの約4%を占領していたと言われている(同社はMegaupload.com以外にも数々のサービスやソフトウェアを提供していたが、ここでは割愛する)。

MEGAUPLOADの成功で巨万の富を築いたドットコム氏は、奇行とも言えるほどの派手なライフスタイルを隠そうとしなかった。彼の名前で画像検索をすると分かるとおり、ジャグジーで水着の美女軍団をはべらせる、超高級車の前でポーズを取る、飛行機で優雅にくつろぐ、パーティで肉を貪るといった楽しげな写真が大量に出てくる。スーツを着て慈善活動家のように微笑んでいる写真はまず見つからない。彼と5人の仲間たちは15台のベンツ(そのナンバーは『EVIL』『WOW』『POLICE』『MAFIA』『CEO』『HACKER』『GUILTY』など、かなり馬鹿っぽい)をはじめとした数十台の高級車を乗り回していた。派手に遊び回る彼の姿を写真で見たことがあるという方も少なくないはずだ。

一時は2億ドル(約236億円)相当の資産を所有していたと言われる彼の、煌びやかな行動には枚挙にいとまがない。例えばニュージーランドのオークランドへ移住した際、「花火が好きだから」という理由だけで、50万ドル(約5900万円)の費用を個人で負担して花火大会を開催した。また派手好きの彼はシンガーとしての活動も行っている。リリースしたシングルの1つ「Mr. President」では、米国政府や著作権団体の行動の正当性を米大統領に問いかけ、市民に対しては「団結してわれわれの権利を勝ち取ろう」と訴える内容のメッセージソングだ(実際には歌というより喋りのような楽曲だが……)。
 

こうした彼のド派手なパフォーマンスは、人々の嫉妬や憎しみを煽るより、むしろ「ここまでやるか」というおかしさを与えてきたと言っても良いだろう。彼に対するバッシングの声は驚くほど少なく、多くのネット市民は彼を「愛すべきクレイジー野郎」と見なしている。ちなみに、彼が恰幅のいい人物であることは周知の事実だが、実際の彼は縦にも大きい(伝えられるところによると身長2m、体重136kg)。また、2014年5月に別れたばかりの妻との間には5人の子供がおり、そのうち2人は双子である。

だがそんな生活も司直の手により終わりが訪れる。2012年1月20日、ニュージーランドにあるドットコム氏の豪邸に家宅捜索が入り、彼と3人の幹部は不正売買とマネーロンダリングの容疑で逮捕された。この家宅捜索は米国FBIの要請を受けたニュージーランド警察が、あえて「ドットコム誕生パーティ」を襲撃したものだった(この事件の舞台となった彼の豪邸がどのような家なのかは「Dotcom Mansion」で検索すれば一目瞭然だ。面倒だ、という方には「大人版ネバーランド」を想像していただきたい)。この逮捕により、Megaupload.comは直ちに閉鎖され、また3900万ドル(約46億円)相当の同社の資産も押収されたと言われている。

現在のドットコム氏にかけられている主な容疑は「著作権法違反」だ。米国当局の起訴状は、「Megaupload.comの著作権侵害が、エンターテインメント業界に5億ドル(約590億円)の損害をもたらした」と主張しているが、彼はそれを真っ向から否定している。また「Megaupload.comが海賊版であると知っていながら削除しなかったファイル」と米国当局が主張したリストについて、彼は「別の捜査を助けるために保持するよう、米国司法省から頼まれて削除しなかったファイルだ」と反論、米国司法省を「制御不能の悪徳米国弁護士ギャング」と表現し、自分は罠にかかったと主張している。

ドットコム裁判は現在も続いているが、米国で有罪判決を受けた場合、彼には20年以上の懲役刑が下される可能性もある。しかしドットコム側もまた、彼に対する捜査や監視が不法であったと強く訴えている。ニュージーランドの裁判所は2013年に「捜査そのものは合法だったが、彼に対する監視活動は法の範囲を超えていた」との見解を示し、ドットコム側がGCSB(ニュージーランドの諜報機関)を告訴することを認めた。

この事件に関しては「米国当局が裁判所の許可なく強引にMegaupload.comを閉鎖した」という批難も集まった。とりわけ当時SOPA/PIPAに反対していたAnonymousにとって、そのニュースは格好の抗議の対象となったようだ。ドットコム逮捕が伝えられたとき、Anonymousは直ちに「Operation Megaupload」という報復作戦を立ち上げ、ホワイトハウスや司法省などの米国政府機関、RIAAといった著作権保護団体など幅広い標的に対しDDoS攻撃を仕掛けている。この攻撃により、FBIやワーナーミュージックなど、複数のサイトが一時的にダウンする事態となった。

Megaupload.comの閉鎖からちょうど1年が経過した2013年1月19日、ドットコム氏は新たなストレージサービス「Mega」をオープンし世間を驚かせた。このサービスは、全てのファイルがアップロード前にローカルでJavaScriptを使って暗号化されるのが特徴で、無料会員は50GBまで利用可能(有料会員は4TB)。PCだけでなくAndroid、iOS、BlackBerry OSにも対応している。ドットコムが2014年11月に語ったところによれば、すでに登録会員の数は1500万人にのぼるという。

さらにドットコム氏は2014年3月、「ニュージーランド市民に対する政府の監視活動の中止」や「同国のよりよいインターネット環境の提供」をマニフェストとした政治団体「インターネット党」を設立。インターネット党はマナ党と連合を組み、ドットコム氏はその政治キャンペーンに2900万ドル(約34億円)を費やしている(ちなみにドットコム自身は、同国の市民ではないので立候補できない)。しかし、インターネット党とマナ党は2014年の総選挙では一議席も得ることができなかった。その敗北についてドットコム氏は「全て私の責任だ。我々が達成したい目標において、キム・ドットコムのブランドは『毒』だった」とコメントした(念のため申し上げると、この選挙活動の最中も彼の立場は「保釈中の容疑者」である)。

2014年11月、ロンドンで開催されたunBound Digitalカンファレンスで、ビデオ中継による出演を果たしたドットコム氏は、「私が最も後悔していることは、著作権団体やMPAAによる脅威を充分に深刻視せず、また犯罪行為に手を染めていない我々は法律によって守られるものだと信じていたことだ」「彼らは私の財産を奪った。自分を弁護するための金は使い果たした。現在は正式に破産している」「私はもうじき刑務所へ戻る羽目になるかもしれない」と珍しく弱音を吐露した(ただし冒頭でお伝えした通り、翌月1日、彼の保釈取り消しは却下されている)。

巨額の財産を失い、妻と離別し、3年以上も裁判を繰り返し、さらに選挙で大敗したのだからそれも当然だろう。だが、その中継で彼が語ったことの大半は「政治と法律の不正を嘆く」「大国による監視行為を憂う」といったネガティブな内容だったものの、聴衆の質問には非常に陽気な表情で答えている。


32分半のドットコムの出演が最初から最後まで収録されている

「酷い目にあったが、毎日子供たちと遊べる私は幸せな男だ」「子供たちには『クラウドストレージのサービスは始めるな、将来は弁護士になれ、金になる』と教えているよ」。そんな話も笑顔で語り、最後にポーズを決めるドットコム氏は、まだまだ体力を残しているようにも見える。彼を「終わり」だと見るのはまだ早いかもしれない。

江添 佳代子

江添 佳代子

ライター、翻訳者。北海道生まれ、東京育ち、カナダ・バンクーバー在住。インターネット広告、出版に携わったのち現職。英国のITメディア『The Register』のセキュリティニュースの翻訳を、これまでに約800本担当してきた。
THE ZERO/ONEの記事を中心に、ダークウェブをテーマにした『闇ウェブ』(文春新書)の執筆に参加。

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